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「なのはさんのお兄様だけあって、やっぱり格好いいですね~」 あいさつが済むと同時に、スバルは目をキラキラと輝かせ、ブリッコのポーズを取りながら言った。 「ちょ、ちょっとスバル! いきなり馴れ馴れしくするんじゃないわよ!!」 ティアナに怒鳴られるが、スバルはしゅんとした表情で人差し指同士を合わせながら反論する。 「でも、本当にそう思うんだもん」 「ははは、どうもありがとう」 恭也は笑顔で二人に言うのと同時に、店の入り口から恭也と同じ翠屋のエプロンをつけた、半袖の Yシャツに作業用ズボンと運動靴というシンプルな服装の、四十代前半の男性が出てきた。 「おい、いつまで―――おお、なのはか」 男性はなのはたちの姿を見ると、顔をほころばせる。 「あ、父さん」 「お父さん、忙しいところをごめん」 なのはの父で、翠屋の店長である高町士郎に、アリサとすずかは「今晩は」と挨拶する。 「ええと君たちは、確かなのはの教え子で…ティアナさんとスバルさんだったね」 士郎そう言って挨拶すると、スバルは「はい、そうです」と、ティアナは「覚えていただいて、恐縮 です」と言って挨拶を返す、士郎はしばらく考え込んだ後、なのはに言った。 「なのは、皆さんを家に連れてってくれ。夕食は、みんなで揃ったときにしよう」 「うん、分かった」 「あ、あの…お寛ぎのところを邪魔しては――」 ティアナがそう言いかけた時、士郎はそれをにこやかに遮った。 「いえいえ、娘の部下の方々でしたら、私の家族も同然ですよ。どうぞご遠慮なさらずに」 「あ、ありがとうございます」 ティアナは、多少緊張気味に士郎へ礼を言った。 数時間後、高町家居間の食卓には和洋様々な種類の豪華な料理が並び、部屋全体にいい香りが漂っていた。 「うわぁ~、おいしそう~」 「すごい…」 スバルとティアナは、ミッドチルダでも当たり前に食べられているものから生まれて初めて目にする料理 まで、技巧を凝らした様々なご馳走の数々に目を輝かせ、息を呑んだ。 「さぁ、召し上がれ」 士郎の左隣に座っている、幾何学模様のワンピースという服装と綺麗な顔のため、士郎と同年代とは思え ないほど若々しいなのはの母、高町桃子がにこやかにスバルたちへ言った。 「では、お言葉に甘えて…」 「いただきま~す」 ティアナは桃子に丁寧に礼を言い、スバルは、手を合わせながら快活に言って箸を取り上げた。 スバルたちがおいしそうに食べ始めたのを契機に、高町家の面々となのはの友人達も食事を始める。 しばらくの間、居間の全員は食事に集中して、会話が途切れる。 全員程よく胃が満たされ、落ち着いて来た時、桃子がスバルたちに尋ねた。 「スバルさんとティアナさんは、なのはの教え子なんですってね」 その質問に、ティアナが答える。 「はい、機動六課に所属していたとき、教導官として色々と教えていただきました」 「その時のなのはって、あなたたちから見てどう?」 「そうですね…」 ティアナは、フォークを置いて天井に頭を向けながら考えてから、答えた。 「厳しいですけど、基礎から順序立って教えてくれる、分かりやすい教導をしてくれる方…って感じです」 「あはは。ティアらしくていい答えだね」 スバルはそう言って笑いかけると、ティアナは顔を赤くして顔を伏せる。 「スバルさん、あなたはどう思った?」 桃子が尋ねると、スバルは真剣な表情で桃子を見つめながら答えた。 「私は…、初めて会った時からずっと憧れの方です」 スバルは、ここで昔を思い返すような、遠い目をしながら話を続ける。 「小さい時、私はなのはさんに助けて頂いて、その時に自分の力の無さを実感して、なのはさんみたいな 強い人になりたいって心の底から思って、それからずっと…今もなお追いかけてますけど、まだ遥か先の… 雲の上の人、そんな感じですね」 「スバル、それ持ち上げすぎ」 なのはは、顔を赤くして恥ずかしそうに言うと、桃子は微笑みながら娘を見つめた。 「あら、いいじゃないの。娘が人の尊敬を得られるほど立派になるなんて、母親としてこれほど嬉しい事 はないわ」 士郎も笑いながら頷く。 「そうだな。ちょっと前までは小さな子だと思ってたけど、それがあっという間に教官として人に尊敬される までになってるなんて、そうそうある事じゃないぞ」 「多分、我が家で一番の出世頭じゃないかしらね?」 ベージュのブリッジシャツにローライズスキニーデニムパンツという服装の、金縁の眼鏡が知的な雰囲気を 醸し出しているなのはの姉、高町美由希が箸できんぴらごぼうをつまみ取りながら言った。 「ああ、俺も美由希もそんな立場までは行ってないし、稼ぎも我が家で一番じゃないか?」 恭也が自分の境遇を憂えるように、腕を組んで難しい表情をしながら言うと、桃子は恭也の頭に手を伸ばし、 優しく撫でながら答えた。 「いえいえ、恭也も美由希も立派にがんばってますよ」 頭を撫でられている恭也は、恥ずかしそうに顔をしかめて、母親の手から逃れる。 「ちょちょっと母さん、もう子供じゃないんだから」 突然、それまで黙ってサラダを食べていたヴィヴォオが、士郎と桃子に振り向いた。 「士郎おじさんに桃子おばさんも偉いと思うよ、だって二人が居たから、ヴィヴィオはなのはママと出会えた んだもん」 「ありがとうね、ヴィヴィオ」 桃子はヴィヴィオの頭を撫で、士郎は張り切って腕まくりしながら宣言する。 「ようし、ヴィヴィオの為に今まで一番おいしいキャラメルミルクを作ってあげよう」 士郎の言葉に、ヴィヴィオも満面の笑みで返した。 「ありがとう、士郎おじさん」 「いやぁ~、実に幸せなそうな事で…」 「私たち、お邪魔だったかも…」 アリサとすずかが、気まずそうに縮こまっているのを見たなのはは、慌てて二人を宥めに入った。 「アリサちゃん・すずかちゃん、そんな事無いから」 食事が終わると、スバルは庭で恭也とシューティングアーツの手合わせを始め、ティアナは、アリサたちと ミッドチルダと地球の文化について色々話を始める。 士郎と桃子は、ヴィヴィオのキャラメルミルク作りのために台所へ行き、ヴィヴィオも二人について行く。 そしてなのはは、コーヒーの入ったカップを手に、縁側でスバルと恭也の手合わせを眺めながら、美由希と 雑談に興じていた。 「…なのはが、初めてヴィヴィオを連れてきた時は、上へ下への大騒ぎだったわね」 美由希がからかう様に言うと、なのはは苦笑しながら答え。、 「うん。管理局に入ってからの事を、総て話した時もかなりの騒ぎだったけど、あの時はそれ以上だった」 「でも、今じゃ一緒に飲み物作ったりするぐらい仲がいいんだから、良かったんじゃない?」 「うん。多分ヴィヴィオがいい子だったから、お父さんもお母さんも打ち解けられたと思う」 そう言って二人は台所の方に目を向ける。 台所からは、キャラメルミルクのいい香りと、楽しそうに話すヴィヴォオたちの声が聞こえてきた。 「で、クラナガンの方はどうなの? リンディさんから、分離主義勢力についてちょっとは話を聞いてるけど」 なのはは、顎に手を当てて考え込みながら話し始めた。 「最近、情勢が不穏になってきてる。魔術を使える人たちと、そうでない人たちの対立が段々悪化してきてて、 街中でデモが暴動になるなんて事が結構多くなってて…」 「そうなんだ」 「私も、時々暴動の鎮圧に呼ばれる事があるんだけど、正直言って気が乗らない」 そう言った時のなのはの表情に陰りが見えたのを、美由希は見逃さなかった。 「どうして?」 「それだけ今の状況を不満に思う人が沢山居るって事でもあるから」 なのははそこで一旦言葉を切って、空に目を向ける。 「ミッドチルダって、魔法以外の技術に対して本当に冷淡なの。魔術の技能を持たない人たちって選挙権がないし、 就職に関しても色々と制約があるから、彼らが怒るのも当然だって思う」 コーヒーを飲んで一息つけてから、再び話し始めた。 「暴力行為は悪い事だけど、ほとんどの人たちは自分の生活をより良いものにしたくて、間違っていると感じている 事を変えたいから、そうやって抗議している…そんな人たちの思いまで、一時の過ちとして片付けているような気が するの」 美由希は、なのはの肩に手を置いて言った。 「なのはは優しいね。昔、ユーノを拾ってきた時もそんな風に一生懸命だった」 振り向いたなのはを真正面から見つめながら、美由希は話を続ける。 「なのはがそう思うなら、同じように感じている人は他にも居ると思う。魔法の力を持たないけど、懸命に世の中の ために頑張っている人たちに正しく報われるようにしたいって思っている人が」 美由希はそこで言葉を切り、手合わせを終え、庭石に相対して座りながら話をしている、スバルと恭也の方に目を 向けながら話を再開した。 「その人たちと一緒になって、より良い方向に解決できるよう頑張るといいと思うよ。今のなのはならそれが出来る、 それはお姉ちゃんが保証する」 「そうだね。ありがとう、お姉ちゃん」 なのはは小さく微笑んで、空になったコーヒーカップを見つめる。 「ちょっと、新しいコーヒー入れてくるね」 そう言って立ち上がったなのはに、美由希は笑って手を振った。 台所で両親達と話をしながら新しいコーヒーを淹れ、居間に戻ろうと廊下に出た時、首に下げてあるレイジングハートが 点滅を始めた。 「どうしたの、レイジングハート?」 「マスター、八神はやて様から個人向け秘匿通信が入っております」 「はやてちゃんから!?」 なのはは急いで自分の部屋に行き、空間ウィンドウを開く。 「はやてちゃん、どうしたの?」 モニターに映るはやては、緊迫した表情で話を始めた。 「なのはちゃん、お休み中のところ申し訳ないんやけど、こっちでえらい事が起きてな」 「何?」 はやての話を聞いたなのはの表情が凍りつき、コーヒーカップを床に取り落としてしまう。 カップからコーヒーが溢れ、カーペットに黒い染みを作る。 「フェイトちゃんが…」 なのはは、呆然とした表情で呟いた。 前へ 目次へ 次へ
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―――5 聖王教会大聖堂。 遥か頭上の巨大なドーム上の天井には、魔力によって浮かんでいる水晶のシャンデリアがほのかな明かりを放ち、今はなき“ゆりかご”を中心に、 無数の星々がとそれらを仰ぐ次元世界の様々な生物が描かれた宗教画を照らし出している。 部屋を三百六十度囲むように配置されている窓には、聖王の守護騎士たちの絵をあしらったステンドグラスがはめ込まれ、入り口から見て真正面 には、粗末なローブに身を包み、右手に杖を持ち左手は天を指差す、白く長い髪と髭の狂気を孕んだ眼を持つ眼鏡の男“聖王”の巨大なステンド グラスが、圧倒的な迫力を放っている。 聖王が示す先には、透明なガラスの日輪をイメージした丸い穴があり、そこから差し込む陽の光が、重厚な装飾の施された大型のパイプオルガン を演奏する、金髪にカチューシャをつけた、ロングスカートのドレスを着た女性を照らし出していた。 「今日の騎士カリムが弾く曲は、いつにも増して素晴らしいですな」 顔中碁盤の目の如く縦横に彫られた刺青の線と、線の交点総てに金属製の釘のような角が生えたに修道士が、おかっぱ風の髪形の修道女に言った。 彼女は、一心不乱に演奏する聖王教会騎士カリム・グラシアを、不安げな表情で見つめている。 「シスターシャッハ、どうかされましたか?」 修道士の問いかけに、教会シスターのシャッハ・ヌエラは我に返って振り向く。 「何だか、騎士カリムの様子がおかしくないですか?」 「様子…ですか?」 怪訝な顔で修道士が言うと、シャッハは頷いて先を続ける。 「今の演奏には、何かに追われているかのような切迫感が、私には感じられるのですが…」 シャッハの言葉に、修道士は目を細め、床に視線を向けながら考え込む。 「確かに、騎士カリムは何かに憑かれたように必死に演奏されてますが、それはいつもの事ですし、シスターの考えすぎ―――」 修道士がそこまで言ったとき、それまで流暢に流れていたオルガンの重厚なリズムが、突然両手を鍵盤へ叩きつけたかのような不協和音に取って 代わられた。 驚いた二人がが振り向くと、カリムが肩で息をしながら呆然と宙を仰いでいるのが見えた。 唐突な出来事に、それまで厳かに祈りを捧げていた信者たちがざわめく中、カリムは呆然とした表情のまま、聖王のステンドグラスへと視線を向ける。 「騎士カリム!?」 ステンドグラスを凝視したまま何事かブツブツと呟くカリムに、シャッハが恐る恐る声を掛けてみた。 カリムはピクッと身を震わせると、今度はシャッハの方へ顔を向ける。 シャッハの方を向いているのに何も見ていない虚ろな瞳に、二人が戦慄を覚えた瞬間、カリムは白目を剥いて両膝を付いた後、横向きに倒れこむ。 「騎士カリム!!」 シャッハが倒れたカリムへと駆け出したのをきっかけに、聖堂内は騒然となった。 三m近い身長の、平べったい顔に三白眼に細長い胴体がゴキブリを髣髴とさせる、六足歩行の管理局将校が前足を動かして空間モニターを操作すると、 電磁ロックの外れる音がして自動ドアが開き、ゲラー長官以下管理局首脳陣が現れる。 「盗まれたデータは何か分かったか?」 向かい側の、総ガラス張りになっている会議室へ歩きながら長官が尋ねると、将校は触角と首を横に振りながら答える。 「まだ不明ですが、管理局はおろか最高法院や元老院のかなり深部まで探られたのが判明しました。 現在は、機密性及び重要性の高いファイルとプログラムをネットワークから分離する作業にかかっています。 完了次第、ベルカ自治領にある非常時用のバックアップコンピュータに移す予定です」 「ネットワークに侵入しているウイルスについては?」 長官の次なる問いかけに、カタツムリに大きい眼と牙をつけたような姿をした将校が答える。 「技術部が調査しておりますが、ワームと似ている以外はまったく不明です。 というのも、分析や駆除をしようとすると、ウイルスが処理プロセスを解析して対抗策を編み出している所為です」 「…で、思い余って“無限書庫”に、同じものがないかどうか問い合わせたんです」 様々な階級・種族の武官・文官たちが忙しく動き回る廊下を歩きながら、シャーリーは一緒に歩いている機動一課首都公安部特別捜査官の八神はやて 一等陸佐と、なのはの二人に話していた。 「何か分かったんか?」 はやての問いかけに、シャーリーは首を横に振った。 「いえ、手がかり一つも見つかっていないと聞いています。調査は続行するそうですが…」 「ユーノ君のところでも見つからないなんて…」 シャーリーの返答に、なのはは驚きの表情を見せた。 「“世界の記憶を収めた場所”と言われる無限書庫で、そんな事があるんかいな?」 はやてが首を傾げた時、彼女の左肩に乗っている身長30cmぐらいの腰まで伸びたラベンダー色の長髪に、前左側にはやてと同じヘアアクセサリーをした つぶらな瞳の十代前半の少女に見える小型亜人種生物が、外見相応の子供っぽい声で言った。 「ありえない事ではないですよ」 「リイン曹長、どういう事ですか?」 シャーリーが質問すると、首都公安部特別捜査官補のリインフォースⅡ曹長は、はやての肩から飛び上がり、三人の前を滑空しながら身振り手振りを 交えて説明を始める。 「まず考えられるのは、敵対勢力の故郷である世界が既に滅びているケースです。 この場合、記録や文献の殆どは滅亡時に失われてしまうので、実態を把握するのは極めて難しくなります」 「古代ベルカと同じ…か」 はやてが言うと、リインは嬉しそうに顔を輝かせる。 「ご名答です、流石はやてちゃん♪」 大げさにリインが手を上げた次の瞬間、彼女のすぐ横を、身長一.三mで短い象のような鼻に不揃いな牙を生やした口とずんぐりした体型の局員が、二枚 の小さな羽を忙しく動かし、かなりの速さで通り過ぎた。 「バカヤロー! 後ろ向いて飛んでんじゃねぇ!」 悲鳴を上げて跳び上がるリインに、局員は罵声を浴びせて飛び去る。 慌ててはやての肩に戻ったリインに、なのはが質問してきた。 「もう一つ考えられるケースって何?」 リインは気を取り直すと、なのはの問いに答え始めた。 「あ、はい。ええとですね、敵勢力の起源が古過ぎて、データがまだ整理されていないケースです」 四人はいつしか、ゲラー長官たちが討議をしている会議室の近くまで来ていた。 「何しろ“無限書庫”ですからねぇ…私たちの探索がまだ及んでいないデータがあっても不思議ではないです」 突然、はやては歩くのを止め、腕を組んで考え事を始めた。 「はやてちゃん(さん)?」 三人が訝しげに声をかけるのにも応えず、はやてはぶつぶつ呟きながら思案を巡らせる。 「無限書庫で見つからん、自己進化するプログラム…。 …リインの言う通りだとすると…? …ありえるな。いや、しかし…」 突然、はやては何か意を決したような表情で顔を上げると、なのはとシャーリーの手を取る。 「三人とも、これは何が何でも上に報せんとあかんかも知れん。 危険な橋を渡る破目になるかも知れんけど、責任は私が取るさかい堪忍してや」 そう言うなり、はやてはなのはとシャーリーの手を取って会議室へと入る。 突然の出来事に、三人は声を上げる事もできなかった。 会議室内部では、幕僚たちの意見が紛糾しており、外からなのは達四人が闖入して来た事にまったく気付かない。 「ちょ…! ちょっとはやてちゃ――」 「しっ!」 なのはが文句を言おうとした時、はやては人差し指を自分の口に当てて黙らせ、議論を続けている首脳陣へ向けて、顎をしゃくる。 「我々にこれほど大規模な攻撃を仕掛けられる敵となると…」 会議室中央部の席に座ったゲラー長官が両手を顔の前で組んで考え込み始めた時、その前に立っている大きなギョロ眼に鼻のない、眉間に皺を寄せた蛙 みたいな顔の将官が、くぐもった声で意見を述べる。 「まず間違いなく“分離主義者”を剽窃する身の程知らず共に違いありません。 即刻機動一課を動員して、主要メンバーを一網打尽にすべきと考えます」 蛙顔の意見に対して、老人のような顔付きをした首が長くて寸胴の将官が、細長い手を振り回して反論する。 「確たる証拠も無しに、いきなり逮捕するのか!? それはミッドチルダの建国理念を否定する愚挙だぞ!!」 「愚挙だと!?」 蛙顔は激高し、大きな怒鳴り声で老人顔に食って掛る。 「自らの身を守れぬ愚か者共が、我らと対等の権利を求める方が愚挙ではないのかね!? 我々の保護下で生活できるだけでも、余りある恩恵だと言うものだ!!」 「貴様は古代ベルカ人か!? 力に驕って滅びた彼らの台詞だぞ、それは!!」 つかみ合い寸前の両者の間に、一つ目で六本の触手状の腕を持つ将官が割って入る。 「まぁまぁ、今の言葉は幾ら何でも言い過ぎだとして、第738管理外世界で、分離主義者と反管理局武装勢力が結託して一触即発の情勢という報告が 入っているのは無視出来ないと思いますが、どうですか?」 「お言葉ですが、今回の一連の事件と、それとは無関係だと思います」 その言葉に、それまで激論を戦わせていた幕僚たちがはやてに振り向く。 「何だね君は!?」 蛙顔の将官が胡散臭そうな表情で睨みながら言うと、はやては彼に敬礼して自分の身分を名乗る。 「陸上部局機動一課首都公安部特別捜査官、八神はやて一等陸佐であります」 それを聞いた途端、幕僚たちのうち数人の表情が一気に不快感を顕にしたものに変わり、何人かはヒソヒソと話しこむ。 「八神一佐、我々は今、ミッドチルダの安全保障に関わる重大な会議を行っているところだ。 佐官クラスと言えども、この場に居る権限はないのだぞ」 嫌悪感を露わに言う蛙顔の将官に、はやては怯まずに言う。 「それに関する極めて重大な情報がありまして、無礼を承知で参りました」 必死に食い下がるはやてへ、まぶたが眉のように垂れ下がった、石仏のような彫り顔に黒土の肌色をした将官がやって来る。 「それならば、部局長のベイラム大将に話を通してからになさい」 彼は、なのは達のほうを振り向いて言った。 「君たち、八神一佐を連れて出てってもらえるかな?」 なのはとリインは頷くと、なのはがはやての右腕を、リインは左肩を掴んで外へ連れ出そうとする。 「はやてちゃん、早く行こう」 「そうですよはやてちゃん」 二人に引っ張られながら、はやては首脳陣に大声で呼びかける。 「今回のクラッキング攻撃の第一発見者をここに連れてきました!! 現在、ネットワークを侵食しているウイルスについても、一番情報を持っております!!」 「待て!」 ゲラー長官が立ち上がって鋭い声で言うと、なのはとリインはビクッと身をすくませて動きを止める。 「第一発見者…と言ったな?」 はやては頷くと、事の成り行きを呆然と見ていたシャーリーの方を振り向く。 「シャーリー」 「え!? は、はい!」 はやてに呼ばれたシャーリーは、緊張気味にゲラー長官へ敬礼して自分の身分を名乗る。 「陸上部局技術部士官、シャリオ・フィニーノ三等陸曹であります。 タイコンデロガにてマリエル・アザンテ技官と共にセギノール基地のクラッキング信号を解析していた時、敵のネットワークへの侵入を発見いたしました」 ゲラー長官は、左横の一つ目ヒトデ型生物の将官へ振り向く。 「間違いないか?」 ヒトデの将官は、空間モニターを開いて事件当日の記録を確認する。 「はい、確かに敵のクラッキング信号の第一発見者として名前が載ってあります」 ゲラー長官はシャーリーに再び顔を向けた。 「話を聞こう」 シャーリーは一呼吸入れて気分を落ち着けてから、話を始める。 「今回の事件で私が指摘したいのは、侵入者がネットワークへ入り込むまでにかかった時間は、僅か十秒であると言う事です」 シャーリーはそこで一旦言葉を切り、幕僚たちの反応を見る。 ゲラー長官が真剣に聞き入っているので、幕僚たちも神妙にしている。 話を続けて大丈夫と判断して、シャーリーは再び喋り始める。 「総当り法による正面攻撃では、最新鋭のスーパーコンピュータでも突破するには最低二十年は掛るよう設計されているファイアウォールがあるにも 関わらず、たったそれだけの時間で突破されてしまった」 鬼のように角が二つ突き出た、紅いつり目に皺だらけの顔の将官が、シャーリーに言う。 「で、君たちは何を言いたいのかね!」 シャーリーが振り向くと、はやては頷いてシャーリーの前に出てくる。 「要するに、今回我々管理局が相対している敵は、技術の粋を集めて構築された鉄壁の防御を誇るネットワークを、僅か十秒で難なく突破できる相手 であるという事です」 はやての助けに力を得たシャーリーは、ここぞとばかりに一気に喋り始める。 「しかも敵がネットワークに放った信号は自己学習し、絶えず変化と進化を繰り返しています。 これは、我々が普段使っているフーリエ変換と同じに考えるべきことではありません、むしろ量子力学の領域かも知れない」 ここで一呼吸入れた後、シャーリーは結論を結ぶ。 「私の見解を言いますと、あのウイルスプログラムは、コンピュータと同じ学習能力とバクテリア並の強力な増殖力を持つ一種の生物であります。 分離主義者による犯行と考えるには、余りにも高度すぎると思いませんか?」 シャーリーの意見に、かぼちゃのような大きな頭と怒り肩のような瘤が両肩に付いた将官が、呆れたように首を横に振りながら異を唱える。 「君たちはどうもドラマと現実を混同しているようだな。 いいかね? 管理内外の全次元世界内に、そんな複雑かつ即応性の高いシステムを持つ世界など存在せんのだよ」 それに対して、はやてが幾分感情的になりながら反論する。 「我々が知りうる世界ではそうでしょう。しかし、今まで存在を知られていない未知の次元世界から来たとしたらどうでしょうか? 現在までに確認されている次元世界は推定五千億、管理局が把握しているのはそのうちの0.005パーセントの二千五百万、更に管理内外のランク 付けが完了しているのは0.005パーセントの千二百五十。 世界のほんの一端しか知っていない―――」 そこまで言いかけたとき、ゲラー長官が二度両手を叩いてはやての話を遮った。 「わかった、もういい充分だ」 話を途中で遮られて不機嫌そうなはやてと、 「八神一佐、フィニーノ陸曹、君らの意見はよく分かった。だが、分離主義者の脅威がすぐそこに迫っている現状で、未知の勢力についてあれこれ 論じている余裕は我々にはない。 君らの仮説を裏付ける証拠が見つかった時、また話を聞かせてもらおう。 だが、それまではいたずらに騒ぎ立てないで欲しい、ここで話した事ももちろん他言無用だ」 長官は背後を振り向いて声をかける。 「ギーズ一佐、彼女たちを送ってもらえないか?」 首脳陣の後ろにずっと控えていた、片顔が隠れるほどの長髪に精悍かつりりしい顔立ちの、はやてと同じ佐官用の制服を着た白人、シャルル・ド・ ギーズ一等陸佐が、長官の言葉に前へ出てくる。 「私も、ちょっとご一緒してよろしいですか?」 それまで事の成り行きをじっと静かに見守っていたゲンヤがそう言って立ち上がった時、はやてはビクッと身を竦ませた。 ゲラー長官がゲンヤに頷くと、ギーズ一佐はドアを開けて退出するよう促す。 なのは達は敬礼して会議室を退出する。と、入れ替わりに通信将校が駆け足で部屋へと入って行き、長官に敬礼して何か報告を始めた。 外へ出てしばらく歩いた後、突然ゲンヤははやての頭を軽めながらも、拳骨で殴った。 「バカヤロ。お前、幾らちびダヌキでも、今回はムチャし過ぎだぞ」 両手で頭を押さえ、涙目になりながらはやては言う。 「す、すみません。でも、この話はどうしてもしとかないと、無関係の次元世界で戦争になりかねないと思って…」 「そん時の為に俺が居るんだ、何もお前が心配する必要はなかったんだぞ」 厳しい表情で言うゲンヤに、はやての反論も尻つぼみになる。 「は、はい…」 「それに、騎士カリムやクロノ提督の立場も考えろ。ったく、高町とフィニーノのお嬢まで巻き込みやがって」 「うう…」 すっかりしょげかえったはやてと不機嫌に腕を組むゲンヤに、ギーズ一佐が取り成すように 「まぁまぁ、ナカジマ少将。長官は彼女たちの話に興味を持たれたようですから、あながち無駄ではなかったと思いますよ」 その言葉に、はやては相好を崩してギーズにすがり付く。 「ギーズ一佐、ありがとな~。あんたは私の恩人や~」 ナカジマ少将は困った表情で額を押さえ、目を閉じながら言う。 「ギーズ一佐、あんまりちびダヌキを甘やかさないでくれ。増長されて元老院まで行かれてはかなわん」 「以後は自重しますよ」 肩をすくめて会議室へと戻るゲンヤへ敬礼を返すギーズに、今度はなのはがやって来て右手を差し出して握手を求める。 「ギーズ一等陸佐ですね、噂は聞いております。陸上部局のストライカー級魔導師として勇名を馳せているとか」 ギーズ一佐は、なのはと握手しながら笑って言う。 「エース・オブ・エースに名前を覚えていただけるとは、光栄の極み」 なのはとギーズのやり取りを横目に、シャーリーは何か深く考え込んでいる。 その眼には危険な光が宿っている事に、誰も気付かなかった。 前へ 目次へ 次へ
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<ジュエルシード>―――! 我々は、この宝石を知っている! いや! この禍々しい輝きと忌まわしい魔力の淀みを知っている! この奇妙な物語の始まりを司り、中核を担う遺失物。 『願いが叶う』宝石。 その正体は、次元干渉型エネルギー結晶体である! 全部で21個あり、シリアルナンバーが各個に1~21と振られている(この数字は、実際にはローマ数字が使われている)。 能力的には、ナンバーに関係なく、全てほぼ同等だと思われる。 ジュエルシードは、遺跡探索を生業とするスクライア族によって発掘された。 この発掘作業の指揮をとっていたのがユーノ=スクライアで、発掘後の輸送中に原因不明の事故により、海鳴市近辺にばら撒かれてしまったのだ! 輸送時の管理に直接ユーノは関係していなかったが、それでも責任を感じたユーノは、独力でジュエルシードを回収しようとしたが、暴走したジュエルシードは手に負えず、傷を負って倒れたところでなのはと出会うことになる―――。 それが、『高町なのは』とその相棒『レイジングハート』が紡ぐ、長い戦いの歴史の……全ての始まりだった。 「アイツを……ジュエルシードを解き放ってはいけない!」 深夜。不吉で生暖かい風が吹きすさぶ中、なのはと、その傍に立つフェレットの姿をしたユーノは、眼前に聳え立つ巨大な影と対峙していた。 「アナタには素質があります! 『魔法』のパワーを行使する為の才能が! ボクに力を貸してください!!」 「……」 自らの無力を噛み締めながら、ユーノは出会ったばかりの少女の背中を見上げていた。 なのはの手には、つい先ほど渡したデバイス『レイジングハート』が待機モードで収まっている。未だなのはと契約も済ませていないこの状態で、デバイスの能力はほとんど発揮できないだろう。 しかし、奇妙な事になのはは怯えてはいなかった。 武器もなく、目の前には陽炎のように揺らめく黒く大きな影の化け物が蠢いている。そんな異常な状況下に立たされながら、しかしこの少女は、怯えて震える事もなく佇んでいるのだ! (なんだろう……この娘には、魔力の素質以外にも、言葉では言い表せない『凄み』がある!) ユーノは奇妙な感覚に捉われていた。 警戒すべきは、目の前で暴走するジュエルシードであるのに、意識はソイツと臆す事無く対峙するこの不思議な少女に吸い寄せられてしまう。 一般人を事態に巻き込んだ迂闊さを呪いながらも、『この少女なら何かを仕出かしてくれる』という、そんな妙な期待感があった。 「……ねえ」 「! ……な、何ですか?」 怪物と真っ向から睨み合っていたなのはから唐突に声を掛けられ、ユーノは思わず身構えた。 「この子、目とか口みたいなのがあるけれど、生き物なのかなァ……? ご飯とか食べるの?」 「え……ええ!?」 あまりに唐突で予想だにしなかったなのはの言葉に、思わず一瞬呆けてしまう。 「ねえ、アナタ……口があるんだから言葉は喋れないかなー? ハロォ~~」 この状況下で一体何を言ってるのか……? 混乱するユーノを尻目に、なのはは動物園で初めて見た動物と接するような態度で無防備に歩み寄っていた。 この状況下で一体何をやっているのか……? ついに少女の正気を疑い始めたユーノの錯乱振りをやはり気付かず、なのはは明るい身振り手振りのジェスチャーで蠢く影の化け物とコンタクトを取ろうとしていた。 「ご機嫌いかが~~~? ハッピー、うれピー、よろピくね―――♪」 「あ、あのぉ……?」 「ジュエルシードさん。さあ、ごいっしょに……さん、し―――ハッピー、うれピー、よろピくねー♪」 ……この少女は、ひょっとしてちょっぴりネジの緩い子なのではないだろうか? この緊迫した状況下で、全く事態を把握できていないとしか思えない程気楽な声でリズムを取るなのはの姿に、ユーノは別の意味で戦慄した。 ジュエルシードの暴走体がなのはの行動に律儀にも沈黙する中、ユーノはしばらくてようやく我に返った。 「―――って、君! 一体何してるの!?」 「いやぁ~、ひょっとしたらこの子いい子なのかもしれないと思って。ちょっと探りを入れてみてるの。 雪男やネッシーとかにも、出会った時悪い者と最初から考えるのは良くないと思うの、わたし」 「何をバカな! アレに考える能力なんてない、ただ暴れるだけの危険なモノなんですよ!」 「うーん、でも何事も最初はお話する事で歩み寄れると思うんだ。大切だよ、お話って」 「無理だよ! アレには会話するだけの思考力も―――来るッ!?」 なのはの独特のペースに巻き込まれそうになっていたユーノだったが、とうとう動き出した暴走体に感付き、警告を叫んだ。 黒い塊が空高くジャンプし、全身を使ってなのはを押しつぶそうと落下してくる。 これには結構呑気してたなのはもビビった! 「うわぁああああーーー!?」 慌ててその場から飛び退れば、一瞬遅れて黒い巨体が岩石のようにアスファルトへ激突する。地面と共に自らの体も弾け、暴走体の欠片が炸裂弾のように周囲に飛び散った。 ブロック塀は無数の弾痕を刻み、電柱はへし折れて倒れる。 「何、アイツすごく危険なヤツだよ!?」 「だからそう言ってるんです! さあ、早くレイジングハートの力を解放して! まず呪文を……」 一国の猶予も無い事を理解したユーノはなのはを急かす、が、しかし! 「……」 その時、なのはが意識を向けていたものはユーノの言葉などではなかった。 「……『アレ』……『アレ』はッ!」 「君、一体何を見て……!?」 なのはを叱責しながらも、視線を同じ方向に走らせてユーノはようやく彼女の注目する物を発見した。 それは、ついさっきまで『生物』だった『物』だった―――。 猫が一匹、死んでいた。 弾けた暴走体の破片を受け、首を抉るように吹き飛ばされたその仔猫は、どう見ても確実に死んでいた。 首輪も吹き飛んでしまったのか確認できない。あるいは、あれは野良猫だったのかもしれない。 しかし、重要なのは―――今ひとつの犠牲が出てしまったという現実だった。 「……急ぎましょう。これ以上犠牲を増やさない為に」 惨い死に様から思わず眼を逸らし、ユーノは苦い口調でなのはを促した。 猫とはいえ、この犠牲は自分のせいで起こったものだと言えた。 体を四散させた暴走体は、すでに再び集まり、形を取り戻しつつある。再び攻撃が可能な状態になれば、封印は更に難しくなるのだ。 ―――だが、ユーノが促すまでも無くッ。すでにッ! 「……戦いたくなったよ。アイツを博物館にかざってやる!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 高町なのはは戦闘態勢に入っていたッ!! 先ほどの間の抜けた行動から一切を切り替えた『覚悟』に満ちた表情。 内に煮え滾る『怒り』を宿したなのはの横顔を見て、ユーノは全身に鳥肌が立つのを感じた。 今のなのははさっきとは違う。何らかのスイッチが入ってしまっている。 「この世で最も大切な事が『信頼』であるのなら、最も忌むべき事は『侮辱』する事なの。アイツは、あの無関係な猫の命を、たった今『侮辱』したッ! 『レイジング・ハート』!!」 『stand by redy.set up―――!』 「バ、バカな……! 正式な手順を踏んでもいないのに、レイジングハートが起動した!? それに……なんて魔力なんだ……っ」 なのはの手の中で赤い宝玉が光を放ち、ユーノはその有り得ない光に驚愕する。 レイジングハートがなのはの戦いの意思に呼応したものか、彼女の怒りの精神の波長がデバイスの何かに影響したのか……とにかく、デバイスはなのはを主と認めたのだ。 同時に告げる無機質な声。なのはは純白の光に包まれた。 その光の中でなのはの服は徐々に光と同化し、やがて光の粒子となって消え去る。 それとほぼ同時に別の何かが身体を覆い、新たな服を形作る。 デザインは装着者のイメージを基に―――完成する。なのはだけの『鎧』が! 「これは……?」 光がおさまった後には、その身をバリアジャケットに包んだなのはと、本来の杖の形状に変化したレイジングハートが佇んでいた。 「それが『魔法』です! どういうワケか、今アナタはレイジングハートの使い手として認められました。それによって、アナタを守る力が、その衣服になったんです」 「『魔法』……そう、わたしは『魔法少女』になったんだね」 さすがのなのはも驚きを隠せなかった。 漠然としていた未来の目標が、今唐突に自分の手に飛び込んできたのだ。 しかし、すぐに我に返った。 なのはの魔力の放出と光に、暴走体が反応し、ついに彼女に明確な意識を向けたのだ。虚ろな二つの眼球が、なのはとユーノを捉える。 「いけない、目を付けられた! とりあえず、何処かに隠れましょう。基本的な魔法の使い方も分からない今じゃ、真正面からアレに立ち向かうのは危険すぎる。まず様子を見て……」 「―――ううん、そんな事はしない! これが『いい』の!」 睨みつける敵を警戒しながら忠告するユーノに対して、しかしッ、なのはは逆にレイジングハートを構えた。 『え?』と呆気に取られるユーノを尻目に、視線を敵に向けたまま、先ほどの僅かな戸惑いを既に無くした凛々しい横顔でなのはが答える。 「この『敵に見つかった』状況。隠れるなんてとんでもない! これがいいの! アイツがわたしに意識を集中してくれる、この状況が『いい』んじゃないッ!」 「な、何を言っているんですか!? このままだとアイツはアナタだけを執拗に狙って……ハッ!!」 笑みさえ浮かべそうななのはの横顔を見て、焦ったユーノは引き攣った声で言いかけ―――その途中でなのはの意図に気付いた。 今度こそ、なのはは笑みを浮かべる。少女らしい無垢なそれではなく、牙を持った獣が歯を剥くような、闘争心に満ち溢れた微笑を。 「そう、それが『いい』―――アイツがわたしを狙う限り、これ以上無関係の犠牲が増える事は少なくなるからなの」 「……~~~ッ!」 ユーノ全身を冷たい感触が走り抜ける。それは戦慄だった。目の前の少女の、己の命を賭す程の『決意』に対する畏怖だった! 無謀と言えば、それまでかもしれない。 だが、そんな言葉で言い表せない『凄み』をなのはが持っている事を、ユーノは理解した。 いや、自分に彼女の決断をどうこう言う資格など無い。 自分が、自らの失敗に対する後悔や罪悪感でジュエルシードの封印に躍起になっていた時、彼女はすでに自らの意思で戦い守る事を『決意』し、『覚悟』していたのだ。確かな勝利へのビジョンを持って! ユーノはなのはという少女に圧倒され、愕然とした。 何も知らない少女を戦いに巻き込んだ、と気に病んでいながら、その実何も分かっていなかったのは自分ではないか!? 「アナタは……ッ、覚悟の上だというんですか……? 何故、そこまでして……」 「……この高町なのはには、正しいと信じる夢がある!」 なのはの発した曇りの無い言葉に、レイジングハートの輝きが応える。 その輝きは、ユーノにはまさに『黄金の輝き』に見えた。彼女の精神が放つ光と同じように! ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ 「『ジュエルシードは封印する』『この町も守る』 『両方』やらなくっちゃあいけないっていうのが、『魔法少女』のつらいところだね」 (か……彼女は、やっぱり違うッ! ただの女の子じゃない。 この娘……アイツを『倒す』気だ! ちょっと前までただの小学生だったのに、突然現れた得体の知れない怪物を倒そうとしている! 本気だ! 彼女には、『やる』と言ったら『やる』…………) そして、不気味に蠢くジュエルシードの暴走体に対して、なのはは自ら駆け出した。 (『スゴ味』があるッ!) 「―――『覚悟』はいい? わたしは、出来ている」 バ―――――z______ン! リリカルなのは 第一話、完! to be continued……>(各小ネタへ) <次回予告> CV:田村ゆかり わたし、高町なのは。 極々平凡な小学三年生のハズだったのですが……何の因果か運命か『魔法少女』に任命されてしまいました! 待ち受けるのは、どんな運命? でもどんな『運命』だろうと『覚悟』があれば幸福です。『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばすからですッ! (ズギュゥゥ――z___ンッ!) あと、まだ名前も聞いてないこのフェレット君は家で飼っても大丈夫なんでしょうか? 次回、魔法少女リリカルなのは! 第二話『魔法の呪文は燃え尽きるほどヒートなの』 リリカルマジカルがんばります! 前へ 目次へ 次へ
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チームナカジマと保護者たち 高町ヴィヴィオ アインハルト・ストラトス 高町なのは フェイト・T・ハラオウン コロナ・ティミル リオ・ウェズリー ノーヴェ・ナカジマ ルーテシア・アルピーノ 元機動六課フォワード スバル・ナカジマ ティアナ・ランスター エリオ・モンディアル キャロ・ル・ルシエ インターミドル参加者 ミウラ・リナルディ シャンテ・アビニオン ハリー・トライベッカ ヴィクトーリア・ダールグリュン ミカヤ・シェベル エルス・タスミン ファビア・クロゼルグ ジークリンデ・エレミア 八神家、ナカジマ家、聖王教会他一般 八神はやて シャマル アギト ギンガ・ナカジマ ゲンヤ・ナカジマ チンク・ナカジマ ディエチ・ナカジマ ウェンディ・ナカジマ カリム・グラシア シャッハ・ヌエラ セイン オットー ディード メガーヌ・アルピーノ シャリオ・フィニーノ 古代ベルカの王 オリヴィエ・ゼーゲブレヒト クラウス・イングヴァルト 高町ヴィヴィオ(一人称:わたし、ヴィヴィオ) アインハルト:アインハルトさん なのは:なのはママ、ママ フェイト:フェイトママ コロナ:コロナ リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバルさん ティアナ:ティアナさん ミウラ:ミウラさん シャンテ:シャンテ ハリー:ハリー選手 ザフィーラ:ザフィーラ チンク:チンクさん セイン:セイン オットー:オットー ディード:ディード ルーテシア:ルールー クイント:クイントさん イクス:イクス クリス:クリス レイジングハート:レイジングハート バルディッシュ:バルディッシュ アインハルト・ストラトス(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオさん コロナ:コロナさん リオ:リオさん ノーヴェ:ノーヴェさん ミカヤ:ミカヤさん クラウス:クラウス オリヴィエ:オリヴィエ殿下 ティオ:ティオ 高町なのは(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトちゃん フェイト:フェイトちゃん コロナ:コロナちゃん リオ:リオちゃん ノーヴェ:ノーヴェ ティアナ:ティアナ ルーテシア:ルーテシア メガーヌ:メガーヌさん クリス:クリス フェイト・T・ハラオウン(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのは ノーヴェ:ノーヴェ エリオ:エリオ キャロ:キャロ シャーリー:シャーリー マリー:マリーさん クリス:クリス コロナ・ティミル(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトさん リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェさん ルーテシア:ルーちゃん ハリー:番長 ウェンディ:ウェンディさん はやて:八神司令 ブランゼル:ブランゼル リオ・ウェズリー(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルトさん コロナ:コロナ スバル:スバルさん メガーヌ:メガーヌさん ソルフェージュ:ソル ノーヴェ・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのはさん フェイト:フェイトさん コロナ:コロナ リオ:リオ スバル:スバル ティアナ:ティアナ ミウラ:ミウラ ミカヤ:ミカヤちゃん ギンガ:ギンガ ザフィーラ:旦那 ゲンヤ:おとーさん ルーテシア:お嬢 メガーヌ:メガーヌさん マリー:マリーさん ジェットエッジ:ジェットエッジ、ジェット ルーテシア・アルピーノ(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト コロナ:コロナ リオ:リオ シャンテ:シャンテ はやて:八神司令 アギト:アギト シャッハ:シスターシャッハ セイン:セイン ガリュー:ガリュー メガーヌ:ママ ブランゼル:ブランゼル スバル・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ ティアナ:ティア エリオ:エリオ キャロ:キャロ セイン:セイン ヴォルツ:司令 イクス:イクス ティアナ・ランスター(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト なのは:なのはさん リオ:リオ ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバル キャロ:キャロ エリオ・モンディアル(一人称:僕) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ フェイト:フェイトさん ストラーダ:ストラーダ キャロ・ル・ルシエ(一人称:わたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト フェイト:フェイトさん リオ:リオちゃん セイン:セイン ルーテシア:ルーちゃん フリード:フリード ミウラ・リナルディ(一人称:ボク) ヴィヴィオ:ヴィヴィオさん はやて:はやてさん シグナム:シグナムさん ヴィータ:ヴィータさん シャマル:シャマル先生 ザフィーラ:師匠 リイン:リインさん シャンテ・アビニオン ヴィヴィオ:陛下 ルーテシア:ルルっち シャッハ:シスターシャッハ ハリー・トライベッカ(一人称:オレ) ヴィクトーリア:ヘンテコお嬢様 エルス:アホ、アホのエルス ジークリンデ:ジーク ヴィクトーリア・ダールグリュン(一人称:わたくし) エドガー:エドガー ハリー:不良娘、ポンコツ不良娘 ジークリンデ:ジーク ミカヤ・シェベル(一人称:私) ノーヴェ:ナカジマちゃん エルス・タスミン(一人称:私) ジークリンデ:チャンピオン ファビア・クロゼルグ(一人称:ファビア) ジークリンデ・エレミア(一人称:私(ウチ)) ハリー:番長 ヴィクトーリア:ヴィクター 八神はやて(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト シグナム:シグナム ヴィータ:ヴィータ ザフィーラ:ザフィーラ リイン:リイン アギト:アギト スバル:スバル ミウラ:ミウラ ルーテシア:ルール クリス:クリス シャマル ザフィーラ:ザフィーラ ザフィーラ} ヴィヴィオ:ヴィヴィオ ノーヴェ:ノーヴェ ミウラ:ミウラ アギト ルーテシア:ルール ギンガ・ナカジマ(一人称:私) ウェンディ:ウェンディ ゲンヤ・ナカジマ(一人称:俺) なのは:高町嬢ちゃん チンク・ナカジマ(一人称:私、姉) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ イクス:イクスヴェリア陛下 オリヴィエ:オリヴィエ聖王女殿下 ディエチ・ナカジマ(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ スバル:スバル ウェンディ:ウェンディ イクス:イクス ウェンディ・ナカジマ(一人称:あたし) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト ノーヴェ:ノーヴェ ルーテシア:ルーお嬢様 スバル:スバル ミカヤ:ミカヤちゃん チンク:チンク姉 カリム:騎士カリム シャッハ:シスターシャッハ セイン:セイン姉 オットー:オットー ディード:ディード イクス:イクス カリム・グラシア(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ シャッハ:シャッハ セイン:セイン イクス:イクス シャッハ・ヌエラ(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ シャンテ:シャンテ セイン(一人称:私) ヴィヴィオ:ヴィヴィオ アインハルト:アインハルト、覇王っ子 ノーヴェ:ノーヴェ ウェンディ:ウェンディ シャッハ:シスターシャッハ シャンテ:シャンテ イクス:イクス オットー(一人称:僕) ヴィヴィオ:陛下 コロナ:コロナお嬢様 ノーヴェ:ノーヴェ ディード(一人称:私) ヴィヴィオ:陛下 リオ:リオお嬢様 ノーヴェ:ノーヴェ姉様 スバル:スバルさん ディエチ:ディエチ姉様 ウェンディ:ウェンディ姉様 イクス:イクス様 メガーヌ・アルピーノ ヴィヴィオ:ヴィヴィオちゃん アインハルト:アインハルトちゃん エリオ:エリオくん セイン:セイン ルーテシア:ルーテシア クイント:クイント シャリオ・フィニーノ(一人称:私) フェイト:フェイトさん オリヴィエ・ゼーゲブレヒト(一人称:私) クラウス:クラウス クラウス・G・S・イングヴァルト(一人称:僕) オリヴィエ:オリヴィエ
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『マクロスなのは』「プロローグ」 銀河中心付近の小惑星帯。そこにはある大船団が潜伏していた。 巨大な小惑星の横には同じぐらい巨大な1隻の船が見える。それは全体がオレンジ色に塗装されており、多数の戦闘艦が周囲に展開していた。 かつてマクロスギャラクシーのメインランドと呼ばれたこの移民船。しかし今そこには人の営みが感じられず、運用する〝人〟はまるで機械の歯車のように働いていた。 その内部は密閉式ケミカルプラント船のため海は無く、地面は無骨な鉄の床が覆っている。 天井は初代マクロスからの伝統で空が映し出されているが、それすら工場群から吐き出されるスモッグによって曇っていた。 本来なら船団の環境維持部門の誰かが空気の清浄化を行うところだが、今そこは誰もいない。 なぜならギャラクシーの人の大部分が〝ある研究〟に回されていて、船団の環境維持など無視されているのだ。そしてその研究施設ではそれが大詰めを迎えていた・・・・・・ (*) ギャラクシー統合研究センター 「やっと見つけた」 センターにある個室のうちの1つに、妖艶な声がこだまする。 その声の主はマクロスフロンティア船団を壊滅の一歩手前にまで追い込んだ張本人、グレイス・オコナーだ。 彼女はフロンティアの遠隔リモート端末・・・・・いや、これは正しくない。意識をほぼ完全移行した自立クローンが撃破されたのと同時に、オリジナルとしてここ、ギャラクシーで蘇生を果たしていた。 そんな彼女が蘇生からずっと打ち込んできた研究の結果が目の前にあった。 彼女の表示するコンピューター画面には図式化された地球と、地球の軌道上まで伸びる破線で結ばれたフォールドゲートが写し出されている。 しかし、画面下に表示されているタイムゲージは2060年現在ではなく、2008年9月となっていた。この頃はまだ異星人との遭遇によって発生した第一次星間戦争は始まっておらず、統合戦争と呼ばれる人間同士の戦争があった。 それは来るべき異星人との対話に当たり、地球の国家を統合するという名目だったが、それに反対する国家群との戦いは長きに渡った。この年はその戦争の末期に当たる年だ。 「ようやく、あなたのお姉さんの行き先がわかりそうよ」 彼女は机に飾ってある写真立てにそう告げる。そこには科学の万能を信じる純粋な学者であった頃の自分と、同僚だったランシェ・メイ。そしてかつて地球に存在し 『マヤン』という島に住んでいた紫色の髪のおばあさんが写っていた。 グレイスはほの暗い笑みを浮かべるとそのおばあさんの名を呼ぶ。 その時、背後のドアが開いた。 「主任。ゲートの準備、整いました」 彼は無機的にそれだけ報告すると、踵を返し部屋から出ていく。 今、マクロス・ギャラクシーの乗員は軍から民に至るまで全てインプラントによって強力な精神操作がかけられており、自我のない存在にされていた。 グレイスは立ち上がって無造作に写真立てを掴み上げると、壁に向かって放り投げる。それは放物線を描いて無骨な鉄の壁に激突すると、ガラスの割れる音と共に床に四散した。 「遂に開く!プロトカルチャーへの道を!」 グレイスは笑うと、部屋から出ていった。 誰もいない部屋にデスクトップコンピューターの冷却ファンが静かに唸る。彼女の残した画面には、ある画像が表示されていた。その画像は地球の衛星からの写真らしく、端に月が写り込んでいる。しかしこれもタイムゲージは先の図と同じだった。そしてもっとも特徴的なことに、その時代存在すら知らなかったはずのフォールドゲートが写し出されており、それに入っていく地球製の機体があった。 その機体は不思議な青白い光の粒子に包まれており、まるで鳥のようなシルエットを描き出している。その中央に写る機種は普通のジェットエンジンのため宇宙に出られないはずの初代人型可変戦闘機VF-0『フェニックス』だった。 数秒後コンピューターはスタンバイモードに入り、その画面から光が消えうせた。 (*) 3ヶ月後 バジュラ本星突入作戦から1年が過ぎたバジュラ本星では、到達したフロンティア船団によって、着水したアイランド1を中心に着々と人の住むところを拡げていた。 現在では総人口の半数がアイランド1を離れ、近くの岸を中心に半径1キロに渡って都市を形成している。 初期に行われた検疫では、人類もゼントラーディも遭遇したことがない細菌は確認されておらず、比較的速い移住が行われている。 しかし、その星の生態系を壊す恐れからまだ農業などは行われていない。今はその影響を確かめるテストが行われているが、結果は上々であり、米などの栽培は十分可能であるとのことだった。 その惑星は船団の名称を継いで『フロンティア』となり、マクロスシティ(地球統合政府)からも30番目の開拓星として認可が来ていた。 (*) 首都『アイランドワン』美星学園 第2キャンパス そこは本家アイランド1にある破壊された美星学園のカタパルトの代わりに、航宙科の生徒の為に作られた施設である。 今そこでは1人の青年が通常重力下用にカスタムしたEXギアを着て、そこに敷設されたリニアカタパルトを発射体勢にしていた。 「風速、東に3メートル。気圧1012hPa(ヘクトパスカル)。インターフェース確認。昇降舵良好。エンジン推力は最大へ・・・・・・」 ぶつぶつと確認項目を消化していく。そして───── 「・・・よし!」 彼はカタパルトグリップを強く握ると、射出スイッチを押し込む。 カタパルトはEXギアもろとも彼を時速50キロメートルまで加速し、打ち出した。 彼は風に乗り、上昇を続ける。その昔船団内を翔(かけ)た様に。しかし当時とは違うことがある。0.75Gだった重力が今では1G弱であること、そして空に際限がないことだ。 船団では3000メートルも上がると、煩わしい警告と忌まわしい強化ガラスの壁があった。 現在の高度は6000メートル。 しかし気密ヘルメットのバイザーを介した彼の眼前には白い雲の海と、地平線まで伸びる青い空しかなかった。 彼の着用するEXギアは軍でも使われる多機能強化服(パワードスーツ)で、バルキリー(人型可変戦闘機の通称)でも使われる熱核タービンエンジンを備えている。 EXギアは、大気圏内では反応炉(核融合炉)で発生する莫大な熱で空気を圧縮膨張させて飛ぶため、理論上は無限の航続能力があった。 しかし調子に乗って飛び続けるとフロンティア中央政府の定める空域を軽々超えてしまうので、彼は数度旋回飛行するとアイランドワンへの帰路についた。 市街に到達して高度を落とすと、市内から人より一回り大きな緑色をした虫が飛んできた。第2形態のバジュラだ。 しかし以前「バジュラは危険。そいつらがいる限り、空は戦場になる!」と言っていたこの青年は何の対応もとらなかった。 果たしてバジュラは青年を襲うのだろうか? 答えは否だ。 それはじゃれるように彼の周囲を飛ぶと、平行して飛び始めた。 バジュラとは突入作戦以来共存関係にあり、完全に無害化していた。 それは新たな遊び相手を見つけたのか、市街地内に降りていく。 その市内にはたくさんの人の営みがあった。 道行く人々の笑顔と躍動。 ビルの建築に汗を流すゼントラーディ(巨人族)のおじさん。 民生用にデチューンされたデストロイド(人型陸戦兵器)の中で、昼食の弁当をかき込む土木会社の青年。 公園では数組のカップルが平和な時を過ごしており、その周りを子供達が走り回っている。 どうやらさっきのバジュラはその子供達の元に向かったらしい。子供達はバジュラを混ぜて鬼ごっこのようなものを始めた。 その子供達の保護者は以前の記憶が蘇るのか釈然としない面持ちだが、ゼントラーディ人全てが悪くないというのと同じ理屈でなんとかねじ伏せた。 相手を受け入れられるという姿勢は移民船に乗る上で必要な資質だ。 でなければ異星人に遭遇する度に戦争をすることになる。我々は殴り屋ではない。相手が友好的ならそれに越したことはないのだ。 それにバジュラは、ここ1年に渡る人間との生活によって、犬以上の個々の知能を持つことができるようになり、十分人の生活に馴染むことができた。 そして、街頭に浮かぶ大型のホロディスプレイからは歌声が聞こえてくる。この星への道を切り開き、バジュラとの和解をもたらした2人の歌姫の声が。 彼─────早乙女アルトはヘルメットの上から耳についたイヤリングを触ると、学園への帰路についた。
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本日の献立は! …肉じゃが! おひたし! ぬか漬け! 味噌汁の具は、油揚げとほうれん草なり。 配膳確認、各自、箸の置き忘れはないか? ヴィータよ、速やかに席につけ。 飯が冷めるなり! シグナム、シャマル、リィン、はやて、覚悟…着席完了。 ザフィーラに猫まんまの用意あり。 全員…そろった、準備よし。 いざ! 「いただきます」 強化外骨格は飯を食えぬが、家族は皆で食事を摂るが八神家の掟なり。 今宵もただ、食卓に席並べて鎮座す。 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第四話『葉隠禁止(前編)』 あの日、いきなりはやてが知らない男を連れて帰ってきた。 シャマルがそいつの名を知っていた…葉隠覚悟。 クソ重てえユニゾンデバイス、零(ぜろ)のマスター。 大ケガしてるくせに空港火災で人助けに走り回ってた、 死んでない方がおかしいケガで走り回ってたやつだ。 それだけでも胸クソ悪い…のに、一緒に話してるはやてが楽しそうにしてるのを見て、決定的にムカついた。 最初は数日世話になるだけ、とか言ってたけど、何考えてんだか全然わかんねーし。 わざとお茶、頭にこぼしてみても、なんにも言わねーで拭きやがるし。 怒るとかなんとかしろよ! バカにしてんのかよ! あの目つきがムカつく。 なんか色々見透かされてるみてーでムカつく。 もっとムカついたのは、こんな風にキレてたのがこのあたし、ヴィータ一人だけだったってことだ。 シャマルがいきなり言い出しやがったんだ。 「いっそ、ここにずっといれば? 覚悟君」 入院中はずっと身の回りの世話してたんだっけか、情が移りすぎだってんだよ。 「はやてちゃんは簡単に言うけどね、首都圏だと住む場所も高いのよ」 おめーこそ簡単に言ってんじゃねえよ、男だぞこいつ。 「はやての力になる気があるなら、ここに居る方がよほど実際的だ」 なのにシグナムまでこれモンだったから、あたし一人で認めねー認めねーって言ってたら、 「本日まで、まことお世話になりました」 荷物まとめて敬礼してよ、さっさと出て行きやがったんだよ、あいつ! 完ッ璧あたしが悪モンじゃねーか、ざけんな! その後、はやてに本気で怒られた。 「覚悟君、独りぼっちなんよ。 独りぼっちの子をほっぽり出すなんて最低や」 全員で探しに出て、なのはとフェイトにも手伝わせて、 明け方、あいつが高級住宅街の川べりで座り込んでたのを見つけたのは、よりにもよってあたし自身だった。 帰ってこいなんて言いたくなかった。 あたしは心を許していない…だから。 「メシ、できてんぞ、来いよ…いいから!」 それで突っ張り通して連れ戻したのが、早くも半年前の出来事だ。 今じゃずいぶん慣れたもんだよ、我ながら。 はやての言う通り、あいつが管理局の仕事を手伝うこともあった。 戦力としては、くやしいけど認める。 うちに来て早々、なのはとの対戦結果を聞いてたシグナムが心待ちにしてたみてぇに模擬戦を申し込んだんだけど、 正午に始めてから日が落ちるまで、ずーっとにらみ合ったまま動かねえのな。 で、最終的には、 「積極!」 「紫電!」 同時にしかけて相打ち。 剣と拳が紙一枚の隙間で止まってた。 「葉隠覚悟は袈裟懸けに深き一太刀浴び、即死いたしました!」 「烈火の将シグナム、貴様に首を砕かれて二度と立てん!」 「零(ぜろ)の意志、果たせぬまま終わりました」 「主はやてを置き去りに散ってしまったか」 「不甲斐なき也(や)!」 「私もだ!」 なに、固い握手してんだよ。 戦い通じて友情はぐくんでやんの。 これだからバトルマニアはイヤだよ。 それからはもう、ヒマを見つけては試合(しあ)ってて、たまにあたしも巻き込まれたから、 弱いわけねーってのはよーくわかった。 ラケーテンハンマーを『因果』された時は最低の気分だった。 回転始めて力を溜めた瞬間に「隙あり 因果」とか、やってらんねーよマジで。 空気読めってんだよ。 おかげで、より遠くから打ちかかれるように技自体を改良するしかなかった。 そんくらいには、強い。 だから、ガジェットドローンを素手でズッコンバッコンぶっ壊されても、別に驚かなかったな。 零(ぜろ)は仮封印処置を取られてて許可がないと使えねぇって話で、 シグナムと立ち会ったときにも実際装備しなかったけど、ぶっちゃけあいつ武器いらねーって。 ま、そんなこんなのそんなこんな。 全員一緒の休日がとれたあたし達は、遊園地に行くことになった。 クラナガン・サン・ガーデン。 最近できた遊園地だとか。 んなことはどうでもいいんだ、楽しけりゃな。 だけどよ…こいつ、完ッ璧、ダメだ。 マッハがつくポンチ野郎だ。 はやてにムリヤリ組まされて、その辺はっきしわかった。 ガンシューやったんだよ、ガンシューティングな。 『スーパー・リアル・アサルト3』。 最近ゲーセンに入ったばかりの新作が、大迫力の立体映像で遊べる。 遊園地だと後がつかえるから、二人プレイでライフ共有になってるけどな。 うん、まあ、銃自体はうまかったんだよ。 ほとんど百発百中であきれたしな。 だけど弾は切れるようにできてるのがゲームってもんで、 「弾、切れるだろ、あれ撃てよ」 向こう側に出てきたカートリッジを指さしたんだけどよ… 「なにやってんだよ、撃てってば」 「火薬の塊たる弾倉に銃弾叩き込むなど、正気か、ヴィータ!」 「いやこれ、ゲームだから! ゲームだから! そういうモンなんだってば、そういうルールなんだってばよ」 「しかし…これはリアル、すなわち現実的であると銘打たれていたからして、そのような…」 「だーっ、アホヤローッ」 銃をぶん取ってあたしが撃ったら、弾が満タンになって、 あいつは釈然としない顔でゲームを続けてた。 あたしもぶちぶち言いながら結構先まで行けたんだけどよ、それで終わりじゃなかったんだよなあ。 ガンシューだとよ、ヘルプミーとか言って出てくる民間人いるじゃん。 撃つとワンミスになる邪魔なやつ。 ボスの直前に大量配置されてたんだよな、今作。 それを、あいつな…反射的に撃っちまったのな。 アーオゥ! とかいう悲鳴と一緒にワンミス。 「…今のは!」 「民間人だな、撃つとワンミス」 「なんだと…」 「あいつの盾になるよーに配置されてんじゃねーかな」 「外道許さじ! 正しき因果極めてやる」 んで、銃をピッタリ構えたかと思ったら、奥にいた敵キャラにしこたまぶち込みやがった。 一発撃てば死ぬのによー、こいつはもー。 「あらがえぬ人々の痛み、覚えたか」 「ノリノリだよな、おめー…あ、でも一発残したのな」 弾の補充のために残したか、やっと飲み込めてきたみてぇだな。 ここからはフツーにやれそうだ、そう思ってたのによぉ。 「…何やってんだ? それ、何のマネだ?」 「自害なり」 大真面目に銃口をてめえの頭に向けているこいつに、そろそろ泣きたくなってきたあたしは正常だよな? 「誤射にて罪なき人の生命を絶ったとあらば、我が生命、捧ぐ以外に償う途(みち)なし」 「だから、これゲームだから! それより、ボスが来っぞ」 「首魁(ボス)!」 また眼鏡をギラリと光らせやがった、こいつ。 嫌な予感がするんだけどよ、とりあえず言うだけのことは言って… 「弾一発じゃどうしようもねーから、おめーはすっ込んで」 「問題なし」 「はぁ?」 「胸すわって進むなり。 正義に敗走は無い!」 もう、何言っていいんだか全然わかんねえ。 その後すぐ、ライフ共有のせいで、あたしもろともゲームオーバーになった。 「あっはっはっはっは!! ふわはははははははっ!!」 何が悪かったのであろうか。 てめえはリアルで死ねと言われて蹴飛ばされたゆえ、 昼食がてらはやてに一部始終を伝え是非を問うてみたのだが。 …なにゆえ、皆は笑うのか? シャマルに、リィン、シグナムまで。 「あー、もうダメ、お腹痛くなっちゃって、もう…あはは、ははははっ」 「お腹が痛い?」 「言っておくが違うぞ覚悟、ぷっ、くくくくくっ」 食事に悪いものでも入っていたのかと立ち上がりかけたのを シグナムの両手に軽く制された。 「いや、すまん、おまえを笑い物にする気はない。 むしろその馬鹿正直さは好ましい」 「なにが悪かったかって、本気で聞いてるんだもんね、ふふっ」 「リィンはそんな覚悟くんが大好きなのですよー」 「わたしもや。 もー、ほんと、覚悟君らしーわぁ」 笑い物にされているなど、最初から思っておらぬなり。 皆の微笑みが、これほどに暖かければ。 ザフィーラに目をやると、尻尾をひとつ振って寝転んで居た。 その脇にかがみ、なにやら下を向いていたヴィータが立ち上がり、こちらに向けるは鋭き視線。 「どいつもこいつも…あたしの身に、なれッ!」 ずかずかと歩み来て、わが傍らに置かれたトランクをばんと叩く…何をする。 「零(ぜろ)よぉー、おまえ、こいつにどういう教育してんだよ、こらぁっ」 『我らはただの強化外骨格なれば、常識一般を教えることはできぬ』 零(ぜろ)はすでに心を許していた。 はやてに近しい人全てに。 やはり、はやて主導による徹底した人間扱いが効いているのかも知れぬな、と思う。 零(ぜろ)も一度は止めたらしいが、郷に入りては郷に従えと逆に諭されてしまったという。 ヴィータがこうしてからむのも、今日では日常茶飯事なり。 「にしてもよぉー、もうちょっとよー」 『生まれた世界が違うのだ! やむをえぬ部分は許してくれぬか』 「あんまり、零(ぜろ)を困らせたらあかんよ、ヴィータ」 荒れる様を見かねてか、はやてがたしなめにかかるも、 ヴィータはますますへそを曲げている様子。 やはりおれに落ち度ありか。 「あたしが困らされてんだよ、こいつに! とにかく、もうあたしはイヤだからな、こいつとは行かねー」 「よくわからぬが、申し訳ない」 「謝ってんじゃねーよ、もっとムカつくんだよ」 ではどうしろというのだ。 半年も共に生活しているが、このヴィータのことは未だわからぬ。 彼女らは皆、かつては闇に囚われた戦鬼(いくさおに)であったとは シグナム、シャマル自身の口よりすでに聞いており、その強さにも首肯せざるを得ぬが、 日常のヴィータがただの少女に過ぎぬことに変わりなし。 おれの何が彼女の機嫌をそこねるのか… 「ほなら、しゃーないわぁ」 はやてが席を立ち、おれのとなりに来た。 彼女もまた、たまにわからぬことをするので困るが… 「覚悟君、一緒に行こか。 お化け屋敷」 「お化け屋敷?」 「ヴィータが行きたないみたいやし…怖いんやね」 「彼女ほどのものが恐れる場所とは!」 奇っ怪至極! 遊園地、まっことわからぬ場所(ところ)なり。 先の射撃訓練施設といい…ここは民間人の遊戯場ではないのか? 「わたしは覚悟君と一緒なら怖ないねん」 「了解、謹(つつし)んで護衛させていただく」 …なぜ笑う、シャマル、シグナム。 これは試されていると見るべきか。 よかろう、ならば応えよう。 お化け屋敷がいかなるものであろうとも、はやてに指一本触れさせぬなり! 「征くぞ!」 「うん。 みんな、零(ぜろ)のこと見ててなー」 「待て、っつの」 突如、足を踏みならしたヴィータに振り返ると、 またずかずかとした足運びにて我らの征く道阻みたり。 「止めるな、ヴィータ」 「あたしも行くってんだよ」 「怖くはないか」 「ざけんな」 「良し!」 やはり彼女も戦士であった! ならば共にいざ征かん。 目標、お化け屋敷! 「あ、リィンも行くです、行きたいですーっ」 ―――これが、わが腑抜けぶり思い知る、実に五分前であった。 「覚悟くんたら、もう、ねえ?」 「まったく、少しは洒落のわかる男になれと言いたいが…どうした、零(ぜろ)?」 『侵略行為が行われている!』 「…なに?」 『半径50m以内、室内なり』 「なん、だと」 『追うのだ、覚悟を! はやてを!』 「言うに及ばず!」 「くるしい、ひぐっ、たすけて、息が…」 「撮るよーっ! 次は脱いでスマイル!」 「い、いやだあっ」 「お肉も脱いでスマイル!」 「ぎゃっ、ぐぶげっ!」 「バッチリ撮れたよー、お代は結構! だってボクの写真は芸術だから!」 「ひ、人喰った…お化け屋敷に、ホントにオバケ…おまえ、なに? ナニモノ?」 「ボクは戦術鬼(せんじゅつおに)、激写(うつる)! さあスマイルスマイル、撮るよーっ!」 「助け、うげぇっ」 前へ 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第22話『ティアナの疑心』←この前の話 『マクロスなのは』第23話『ガジェットⅡ型改』 第1管理世界 ミッドチルダ首都クラナガン 某所 「今日の晩、ちゃんと来られるんだね?」 MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)の音声回線を前に女が確認するように問う。 それに回線の向こう側にいる誰かが応える。 『へい、アマネのやつがようやく管理局のレーダーのセキュリティホールを見つけやして』 「でかした!」 『でへへへ、姉(あね)さんに褒められるとうれしいですわ~』 「バカ!あんたを褒めたわけじゃないよ!それで、こっちには何で来るつもりだい?」 『え~と、輸送船で「キリヤ」って船です』 「「キリヤ」って・・・・・・ありゃ先代が30年も前に盗んだダサいポンコツ船じゃないか!もっとましな船はないんかい!?それともうちの次元海賊は首領の私がいないと運営が傾くほど資金難なの!?」 『いえいえ、そんなことないです!あっしにはよくわかりませんが、アマネによればセキュリティホールを抜けるのにあのヒョロっとした形とタイアツコウゾウだったかが重要みたいで―――――』 「あ~もう!わかったわかった!とにかく来なさいよ!そうじゃないとせっかく手に入れたこいつが無駄になるんだからね!!」 『それはもう。アマネもそのカワイコちゃんを思う様に犯してやりたいって張り切ってますわ』 「あの子の期待に応えられそうだよ。この機体は」 次元海賊の首領である女はそう言うと、ブルーシートにかけられた管理局の最新鋭戦闘機を撫でた。 (*) 同時刻 機動六課 訓練所 そこでは模擬戦が最終局面を迎えようとしていた。 魔力を前面に押し出して攻撃を放ってきたスバルの攻撃と、自らの魔力障壁がぶつかり合ってスパーク。放電現象によって周囲の空気の一部がオゾンへと変わったのか、鼻の粘膜に刺すような痛みが一瞬襲う。しかしその痛みはバリアジャケットのフィルター機能が瞬時に遮断した。 それでも自らの嗅覚は上方を推移し始めた動体の動きを見逃さなかった。 ティアナがどんなに頑張ろうと空は自分のフィールド(領域)であり、シロートの接近に気づかぬ訳がないのだ。 「・・・・・・レイジングハート、シールドパージ」 『Alright.』 なのはの指示にスバルを受け止めていたシールドがリアクティブ・アーマー(爆発反応装甲。被弾した場所の装甲が自爆し、弾道を反らしたり減衰して無力化する機構)のように自爆。爆風と煙幕によってスバルの攻撃を完全に無力化する。 しかし自分に自由落下程度で挑んで来ようとは・・・・・・ (遅すぎ) なのはは降ってきたそれを物理的に掴んだ。 そして指先の接触回線から、急ごしらえで作ったらしい詰めの甘い対ハッキングプログラムをオーバーライド。友軍以外の他者の魔法を拒絶するオートバリアを無力化する。 続けて彼女は、オートバリアのなくなったティアナに浮遊魔法をかけて勢いを殺した。 シールドパージからここまで100分の1秒未満。落下距離に換算すればたったの10センチにすぎない。 日々相対速度が音速近くなる(対ゴーストや対バルキリーでは軽く2~3倍を超える)空戦に対応出来る・・・・・・いや、しなければいけないなのはにとってそれは亀のごときスピードでしかなかった。 (*) 突然白煙に包まれ、視界ゼロとなったことにティアナは狼狽する。しかしなのはがいると予想される場所から声がした。 「おかしいな・・・・・・2人とも、どうしちゃったのかな?」 決して怒った口調でも非難する口調でもないなのはの言霊。一定方向から聞こえるという事は自分は静止状態にあるらしい。思考する内にも白煙が晴れていく。 最初に目に入ったのは恐怖で引きつる相棒の顔だった。そして、『どうしたのだろう?』と思う間もなく、冷たい風ががそこを洗った。 なのはの素手で受け止められたスバルのデバイスと自身の魔力刃。 そして魔力刃を握る拳から滴る〝血〟。 それは視界とは裏腹に、自身の頭を白煙で満たした。 「頑張ってるのはわかるけど、模擬戦はケンカじゃないんだよ。練習の時だけ言うこと聞いてるフリで、本番でこんな危険な無茶するんなら・・・・・・練習の意味、ないじゃない・・・・・・」 なのはの一言一言が重くのし掛かる。 今まで丁寧に教えてくれた人に、自分は今何をしている? 銃を突きつけている。 これはいい。ここはそういう所だ。 無茶して怪我させている。 これは・・・・・・弁解の余地はなかった。 「ちゃんとさ、練習通りやろうよ。ねぇ?」 「あ、あの・・・・・・」 しかしなのははスバルの弁解を聞こうとせず、こちらを見る。 その瞳のなんと虚ろなことか。 この優しく、時に厳しい彼女が、こんな生気の抜けた顔をするのか。 その瞳と血とは、ティアナを混乱させるに十分な力を持っていた。 「私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」 なのはの問いかけに、ついにティアナの混乱は頂点に達した。 『Ray erase.(魔力刃、解除)』 唯一自らを空中に縛っていた魔力刃が解除。浮遊魔法で軽くなった体を生かして跳び、なのはから離れたウィングロードに着地する。 しかしそれだけでは冷静さを取り戻すには足りなかった。 「私は、ただ、なのはさんに、認めてもらいたくて・・・・・・さくら先輩みたいにちゃんとした教導を受けたくて─────!」 こんがらがったティアナの思考にはもう一貫性がない。 口とは違い、体はカートリッジを2発ロードし、まだなのはに攻撃を放とうとしていた。 「・・・・・・少し、頭、冷やそうか・・・・・・」 向けられる指先。そこに桜色の魔力が集束していく。 「なのはさ─────は!?バインド!?」 止めに入ろうとしたスバルは、己の両腕がいつの間にか封印されていることに驚愕する。 「じっとして。よく見てなさい」 この時、なのはが他にレイジングハートに向かって何か呟いたが、スバル以外の感知するところになかった。 「クロスファイヤ─────」 「うぁぁーーー!ファントムブレイ─────」 「シュート」 なのはの宣言と共に桜色の砲撃が放たれた。 しかしクロスミラージュが砲撃に使おうとした魔力を流用してシールドを緊急展開。なんとか減衰する。その後貫通したそれはティアナの体を炙ったが、重度の魔力火傷は回避した。 本当なら砲撃プログラムに容量を取られてシールド展開用の緊急プログラム作動すら間に合わない間合いであったはずだが、なのはに命令を受けたレイジングハートのハッキングにより、時限作動していた。 これで戦闘意欲は削いだかに思えたが、ティアナはまだ諦めていないようだった。無理やり攻撃態勢に入ろうとしている。もはや魔力を生み出す体力がないのかカートリッジを湯水のように消費して足しにする。 「お願い、私は負けられないの!!」 しかし願いとは裏腹に生成される魔力をなかなか成形させることができず、オレンジ色の魔力が重力井戸から解き放たれた大気のように空中へと拡散してしまう。どうやら実質的な戦闘不能状態であるようだった。 一方なのはは再び魔力を収束し始めていた。 しかし今度のそれに教育的な理由は感じられない。 先ほどのようにティアナの最高状態に合わせて撃とうとしているわけでもなく、実のところリミッター状態の今のなのはが最も撃ちやすいAA出力の砲撃魔法でしかなかった。 しかしそれはフェイトや守護騎士のような親しい人種でもその事実には気づけなかっただろう。なぜなら彼らはなのはが訓練時に魔力の出力を下げて使うとき、本人ですら気づけないような特殊な癖がある事を知らないからだ。だがここにはその乱心に気づけ、かつ対応出来るだけの能力を持った者が2人いた。 (*) まばたきの瞬間、なのはの目前に浮く収束中の魔力球が破裂した。 その瞬間スバルにはそのぐらいにしか認識できなかったが、直後遥か遠方から聞こえてきた重い発砲音をたどると、観戦していたさくらがビルの窓から魔力球を狙撃したのだとわかった。 そしてティアナの所には高空よりやってきた一陣の風が舞い降りていた。 「この大バカ野郎!歯ぁ、食いしばれっ!!」 EXギアの腕のみを外したアルトの一撃がティアナの頬に炸裂した。 顔に一切のダメージを残さぬよう、足場であるウィングロードから足を踏み外さぬよう、芯まで突き通すように掌(てのひら)で張り飛ばす早乙女家の技はまさに芸術的であった。 その一撃によって彼女の意識は完全に飛び、ウィングロードの上に横たわった。 「ティア!」 狙撃以来バインドから解放されていたらしく、スバルは立ち上がると同時にマッハキャリバーを吹かして親友の元へと駆ける。 その後ろからなのはが厳かに告げた。 「・・・・・・模擬戦はここまで。今日は2人とも、撃墜されて終了」 スバルは振り返りなのはを睨みつけるが、何も言えなかった。 (*) その後意識不明になったティアナの搬送作業、その他のゴタゴタで次に行われる予定だったライトニングの模擬戦も中止。 そのまま解散となった。 (*) 2146時 訓練場前 そこではなのはが、ホログラムのプログラムエラーの修理と最終確認をしていた。 どうやらリアリティの追及のし過ぎでそれぞれのマトリクスに過負荷がかかり、オーバーロード気味だったようだ。 彼女は構成情報を減らしたり、多少のコマ抜けを看過するようプログラムを改良していく。 ホログラムの訓練場でこれほど大規模なものはコストの問題で世界初の試みであったため、まだノウハウの成熟には時間が要るようだった。 「待機関数を1ミリ秒のループに繋いで・・・・・・よし、終了!レイジングハート、プログラムのチェックをお願い」 『Yes my master.』 デバックの進行を表すバーがゴールである100%を目指して伸びゆくのを眺めていたが、後ろからやってきた気配に振り返る。 「誰?」 「い、いよぅ」 突然こちらが振り返ったのに驚いたのか、その人物はラフに挙手した。 「ア、アルトくん!?」 直後背後からレイジングハートのデバックの終了と問題なしの報告。そしてご丁寧に作業用のホロディスプレイまで閉じて〝お仕事〟の終了を完璧に演出してくれた。 絶対の信頼を置く己がデバイスの反乱になのはは全面降伏。仕事に逃げるのをあきらめて問題に向き合わざるを得ないと観念した。 (*) 同時刻 ミッドチルダ 千葉半島沖合100キロメートル その場所に一隻の次元航行船がワープアウト(次元空間から出てくること)していた。黒い船体の中央辺りに突き出た艦橋には輸送船「キリヤ」の文字。 作られたのが40年も前の船で、さらに他世界の次元航行最初期の設計であったために勘違いな設計が多数存在する。 例えば次元空間を当時その世界の理論では水中のような高圧の流体の世界だと考えており、船体のデザイン、そしてその強力な耐圧構造はそれに則して施されている。そのため船体の形状は魚雷型で、スクリューが無いことを除くと潜水艦にしか見えないし構造も同じである。 現代では次元空間のワープバブル(次元空間の時空エネルギーに対抗するために張られるバリアのようなもの)の中は宇宙空間のようなもので、我々のよく知る管理局所属の次元航行船、巡察艦「アースラ」などは見ての通り流体内部を航行するような構造ではない。そのため外装の装備などが充実し、船型を制限されず〝ハイセンス〟なデザインとなる。 そのような事情な現代ゆえ、先ほどの次元海賊の面々もこの艦を前時代的なひょろっとした艦としか認識できないのも仕方ないことだった。 だが現代のそのような認識が次元海賊に幸いする。実はこの輸送船「キリヤ」は次元空間から直接深海1000メートルにワープアウトしており、時空管理局の太陽系すべてを網羅するほどのワープアウト検出用防空ネットワークに引っ掛からないのだ。 セキュリティホールとは言えまさに灯台下暗しとはこのこと。さらに一度ワープアウトして入ってしまえば、海上船舶程度の船籍の偽装は次元海賊の組織力をもってすれば比較的容易で、ワープアウト数分後には水中から浮上して堂々とミッドチルダに待つ女首領との合流ポイントへと向かった。 (*) 「さっきティアナとスバルがこっちに謝りに来てたぞ。なんでもお前がオフィスにいないから先に俺のとこに来たらしい。『今日はもう遅ぇからなのはに謝まるのは明日にしとけ』って言っておいたんだが・・・・・・」 なのはと訓練場から宿舎への道を歩きつつ伝える。 「うん、ありがとう。・・・・・・でもごめんね。監督不行き届きで。それに私のせいでアルトくんやさくらちゃんにもにも迷惑かけて・・・・・・」 「確かにあれはお前らしくなかった。特に2発目。1発目はそうだな、ああするのが一番だっただろうよ。殴って殴って徹底的に型を叩き込む・・・・・・オレの知ってる稽古はそういうものだ」 幼少時代、寝ても覚めても歌舞伎の稽古で殴られ続けた記憶がフラッシュバックを起こして一瞬言い淀むが、今自分がその吐き気を催しそうな指導方法を認めようとしている、さらには先ほどティアナに実施したことに気付いて居たたまれなくなった。 それに教えられてもいないのにあの平手打ちをしっかりマスターしていたことにその業を怨まざるを得なかった。かといって歌舞伎で言うこの「うつし」と呼ばれる真似の技術が自身が幾多の戦場を駆け抜けるのに1役も2役も買っていたことも事実であることが、大人の階段を上る青年の心を複雑にかき乱した。 しかし自分のことで精いっぱいでそんな青年の機微を感じ取る余裕のないなのははその2発目について漏らし始めた。 「・・・・・・私、怖かったの」 「怖いってティアナがか?」 「そう。あの時のティアナ、無茶を通して道理を通す。・・・・・・まるで昔の私みたいだった」 「・・・・・・お前の撃墜事件のことか?」 「うん。無茶してた自分のことを思い出したら撃墜された時の痛みとかリハビリの苦痛を思い出して、気付いたら頭真っ白になっちゃって」 「それで怖くなって撃とうとしてしまった、と?」 「そうだよ。いくらティアナでもクラスAのリンカーコア保持者なんだから、攻撃の意思表示をしている以上、〝出力を落とした〟砲撃で昏倒させようとしたあの判断は戦術的に正しかった―――――」 「おい待て。お前、それは本気で言ってるのか?」 「もちろんだよ。でもやっぱり判断力が鈍ってたのかな。さくらちゃんは放出しちゃったティアナの魔力に私の砲撃が引火するのを防いでくれようとしたんだよね。あの時は助かったよ~。そうじゃなかったらティアナを2,3日病院送りにするところだ―――――」 「ほんとうにらしくないな!高町なのは!!」 「え・・・・・・?」 「俺に嘘をつくだけでなく自分を正当化するとはな!・・・・・・お前には失望したぜ」 踵を返して足早に去ろうとすると、納得できないらしいなのははこちらの肩を掴んで 「ま、待って!どういうことかわからないよ!!」 と、呼び止めてきた。 「なら教えてやる。あのときのティアナは誰が見ても脅威にはならなかった。お前がそれを見間違えるはずがない!それに2発目が出力を落とした砲撃だっただと?フェイト達ならわからんが、残念ながらお前の教導をくぐってきた俺やさくらはだませないぞ。その前には怖くて撃ったと言ったか?・・・・・・見くびるなよ。これでもお前とは何百時間も一緒に飛んできたんだ。他にどんな理由があるか俺には皆目見当がつかないが、お前が言った理由だけではないはずだ!違うとは言わせないぞ!」 有無を言わさぬ口調で言い放つ。例え自らに魔法を教えてくれた師であろうと、今の彼女に背中を任せたくなかったからだ。 直後近くにあった街頭の電灯が消え、運悪く通過する厚い雲によって月明かりすら遮断されて辺りは相手の表情すら読み取れないような真っ暗闇になった。 「・・・・・・あ~あ、流石はアルトくんだね。本当のこと言うとね、あの時私が2発目を撃とうとしたのはティアナが怖かったわけじゃないの。実はね、ティアナの無茶を見ていろいろ痛い思いをした撃墜事件のことを思い出したら、あんな痛い目を将来するかも知れないぐらいなら、その前に無茶すれば絶対なんとかなるって言う幻想・・・・・・かな?それを〝潰しちゃおう〟って思って。私なら魔導士生命を終わらせないぐらいの手加減ができるって考えちゃったんだよね~」 先ほどとは打って変わって声色は明るい。しかし彼女が言ってるとは信じられないような内容と表情が読み取れないせいで病的な、はたまた別人が言っているように聞こえて恐怖を誘う。 「お、おい、お前―――――」 ただならぬ雰囲気になのはに近寄ろうとすると、逆に彼女の方から一瞬で間合いを詰められて胸倉をつかまれていた。しかし何か言う前にちょうど差し込んだ月明かりに照らされた真っ赤になった彼女の双瞳(そうとう)で見上げられ、何も言えなくなった。 「私が今どれだけひどいことを言ったか分かる!?アルトくんなら分かるよね!?私は今までそんなことにならないように教導してきたはずなのに!・・・・・・でもあの時はそう思っちゃったんだ。1週間か1カ月ぐらい病院送りにして懲らしめてやろうなんて―――――んっ!?」 気がつくとアルトは護身術の要領で彼女の両肘を横に払い、その姿勢を崩したところで彼女をしっかりと抱き寄せていた。なんの打算もない。しかし彼に眠っていた記憶、すでに他界した母にそうされると落ち着くことを思い出した故の行動だった。 腕の中で震える彼女を感じると、彼女が生身の女の子であることを認識せざるをえなくなる。それはアルトにおのずと何を言えばいいのかを教えてくれた。 「わかってる。大丈夫だ。完璧な人間なんて居やしない。お前が間違ったときには今日みたいに俺たちが止めに来てやる。だからお前も、お前を信じる俺たちを信じてほしい」 「・・・・・・アルトくんは・・・・・・アルトくんはこんな私をまだ信じてくれるの・・・・・・?私、ティアナを傷つけて、それを隠そうってアルトくんを騙そうともしたんだよ!?」 「ああ。確かに褒められたことじゃない。だが俺はお前を、お前の心根(こころね)を信じる。だからお前も俺たちを信じてくれ。できるよな?」 「・・・・・・うん。ごめんね。・・・・・・ううん、ありがとう」 胸の中でなのはは確かに微笑んだ。そして震えは、確かに収まっていた。 (*) 5分後、ようやく落ち着いてお互い離れたのはいいが、まだ解決していない問題も多い。なのはは意を決すると、アルトに尋ねる。 「ティアナとスバル、どんな感じだった?」 「うーん・・・・・・やっぱりちょっと気持ちの整理がつかないみたいだったな」 苦い表情での答えになのはは再び俯いてしまった。 その場を生暖かい潮風が舐める。と、不意にアルトは口を開いた。 「なのは、お前の教導が間違ってないことは、受けてきた俺達が保証する。だが撃墜事件のことを話してくれてないとなかなか伝わらないし、わかりにくいだろうな・・・・・・」 「うん。いつも最後に話してたけど、フォワードのみんなに明日ちゃんと話すよ。私の教導の意味と、さくらちゃんの教導との違いも」 しかしそれは叶わなかった。 静寂に満ちていた海辺に、けたたましいサイレンが鳴り響く。 2人はアイコンタクトすると指揮管制所のある六課の隊舎へ走った。 (*) 「AWACS『ホークアイ』から警報。千葉半島沖合い50キロの地点にガジェットⅡ型が12機出現しました。しかし機体性能が、従来のデータより4割ほど向上しています!」 隊舎の指揮管制所に集まったロングアーチスタッフと各隊長に、夜間勤務だったシャーリーが報告する。 「ガジェットはどこに向かっとるんや!?」 はやての問いにシャーリーは回答に詰まる。 「それが・・・・・・レリック反応もなく、ガジェットもその場から動きません」 映し出されるガジェット達の航跡は、その場をぐるぐる旋回飛行している事を示していた。 「フロンティア航空基地は?」 「現在出撃待機のみで出撃を見合わせています。理由について先方の回答によれば、あれが敵の陽動である可能性があり、主力、もしくは別働隊の出現に備えるとのことです」 「うーん・・・・・・こっちの探知型超長距離砲撃で十分届くけど・・・・・・」 探知型超長距離砲撃とは、レーダー基地又は観測機、この場合AWACSに正確な砲撃座標を送ってもらい、その座標を元にここから砲撃すること。これによりSランクのなのはの集束砲『スターライト・ブレイカー』なら理論上、射程は500キロにもなる。 しかし砲撃主のリミッター解除を強要するこの手段は、六課において最後の手段に部類される行動であった。 はやては拙速な判断をやめ、集まった3部隊の隊長に助言を請う。 「つまり、あいつらは『落としてくれ』って言ってるんだよな。だったら直接落としに行ってやろうじゃないか!」 アルトの過激な物言いに 「まぁまぁ」 とフェイトがいさめる。 「アルトくんの理論はどうかと思うけど、直接行って落とすのは賛成だな。スカリエッティならこっちの防空体勢とか、迎撃手段を探る頭もあるし。なのははどう?」 「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに、今までと同じやり方で片付けちゃう、かな」 3人とも通常の迎撃を推奨。ならばはやてに、それを拒否する理由はなかった。 (*) 機動六課第2格納庫 そこは3週間前からサジタリウス小隊が占有しており、今も小隊付きの整備員達が右往左往していた。 しかし道に迷っているわけではない。彼らは自分の仕事に専念しているだけだ。 バルキリーの装備は普段軽々と扱っている印象があるが、人間にとってそれは特大サイズだ。 そのため彼らはせっせと、武器庫からガンポッド、ミサイル類をリフトで往復して運び出し、ジャッキ・クレーンを使って装備していった。 特にさくらのガンポッドが曲者だ。 バルキリーの装備の中でも最大といってよいほど大型で長大なこのライフルは、もはや通常のリフト、クレーンでは運べない。 そのため出撃時のみフロンティア基地から持ってきた特殊なトレーラーで武器庫から出され、離陸前にバルキリー自らトレーラーから取り出して装備してもらう。 もはやこうなると、バルキリーが直接武器庫に取りに行けばいいではないか?と思われるかもしれない。だが、そうは問屋がおろさないのだ。 小隊が借りている武器庫は、六課の自動迎撃システム『近接多目的MFS(ミサイル・ファランクス・システム)』のミサイル保管庫であり、地下にある。 そんなところに10メートルというデカイ図体のバトロイドがノコノコ入って行くとどうなるか。 ミッドチルダ製のミサイルはカートリッジ弾が爆薬に相当するので誤爆や誘爆は故意でない限り〝100%あり得ない〟(これが魔導兵器のもっとも優れた点である。)が、もし操作を誤って施設(特に自動装填装置類)を少しでも壊したらその費用は天文学的な数字になるだろう。となればトレーラーを1台持ってきた方が安上がりだった。 「アルト隊長遅いですね・・・・・・」 さくらが狭いVF-11Gの機内で、腕時計を睨みながら呟く。 アラートが鳴ってから20分、そして自分が機体に収まってから既に10分が経過していた。武装の搭載もほとんど終わっており、普段ならとっくに空の上のはずだった。 『さぁ、どうしてかねぇ・・・・・・んだが、誤報だったらただじゃおかねぇ!』 天城が不機嫌そうにこちらの呟きに応える。 「・・・・・・どうしました?なんか語気が荒いですよ」 『ん、あぁ。今日は俺の毎週楽しみにしてる連続ドラマの放送日でな・・・・・・いいところでアラートメッセージがテレビ画面をオーバーライドしやがったんだ!』 『チキショー!よりにもよって一番いいシーンでよぉ!!』などと嘆いている。 直接VF-1Bのキャノピーを遠望してみると、ヘルメットの上から頭を引っ掻いていた。 そんな天城にあきれていると、やっとアルトが現れた。 キャノピーの開閉弁を開けて、肉声で呼び掛ける。 「出撃しますか?」 「ああ、今すぐ出撃するぞ!準備急げ!」 アルトのよく通る声が格納庫に木霊し、整備員達の動きが更に慌ただしくなった。 (*) 『ロングアーチからサジタリウス小隊へ。滑走路はオールクリア。発進を許可します』 「サンキュー、ロングアーチ。」 アルトは通信に応えると、バックミラーで〝後ろ〟を確認する。 「発進するが大丈夫か? ・・・・・・おーい、フェイトぉ?」 後部座席に座っていたフェイトは驚いたように隊舎の玄関からこちらに向き直ると 「うん、大丈夫だよ」 と頷いた。 今回六課の迎撃戦力であるなのは、フェイト、ヴィータはサジタリウス小隊のバルキリーに分乗していた。 現場が約100キロ以上先であり、彼女らなら音速飛行が可能だが、魔力の消費がもったいないためこのような采配になっていた。 しかし、フェイト達が搭乗する前に玄関でひと悶着あったようだ。 アルトは何が起こったか知らなかったが、ティアナがシグナムに殴られたことだけは遠目でもわかった。 「・・・・・・よし、〝あっち〟の方も気になるだろうが発進するぞ」 アルトは告げると、脚(車輪)のブレーキを解除。スラストレバーを最大に上げて滑走路を滑る。 夜間発着用のライトが後ろに流れていく。 元々VF-25用に六課に増設されたこの滑走路は問題なく離陸をアシストし、鋼鉄の鳥達を無事真っ暗な空に送り届けた。 (*) クラナガン郊外 地下秘密基地 そこではスカリエッティが事態の推移を見守っていた。 「今度は何の実験?」 そういって隣に並んだのは言わずと知れた知才、グレイス・オコナーだ。 「ガジェットⅡ型の改修型の性能評価だよ。ガジェットには今までオーバーテクノロジーは搭載していなかったからねぇ~」 スカリエッティの示す図面にはガジェットの全体図が表示されている。 動力機関こそ変わっていないものの、中身は別物だった。 OT『イナーシャ・ベクトルキャンセラー』 OT『アクティブ・空力制御システム』 『新世代型エネルギー転換〝塗装〟』(どうやら既存のガジェットにも搭載できるように新たな合金・・・いや塗料を思いついたらしい。) OT改『高機動スラストクラスター』 『マイクロミサイルシステム』etc・・・etc・・・ エネルギー転換塗装という既存の装甲は〝金属〟という固定観念にとらわれない逆転の発想にも驚いたが、特にグレイスの目を引いたのは『ユダ・システム』の1行だった。 「あら、もう完成させたの?」 グレイスが何を完成させたのか言わずともスカリエッティにはわかったようだ。 「ああ、1機だけだがね。あれには観測機材をたくさん外装したから、できるだけ戦闘を避けるよう言い聞かせてある」 脳のニューロンを真似たマイクロバイオチップは作りにくくてね。 そう言い訳するが、作ってしまうところがこの男のすごいところだろう。 しかしレーダー画面でガジェットⅡ型改部隊が接敵したのは、管理局の部隊ではなく通常の海上船舶だった。 「あら?実験相手は管理局じゃないのね」 「彼らは次元海賊だよ。海底に直接ワープアウトして管理局の防空ネットを抜けてきたようだ。このまま見逃すのも癪だから、実験相手になってもらおうと思っただけさ。それに私は管理局以上に次元海賊が大嫌いでね。ちょうどいい素材に出会えたものだよ」 「そう・・・・・・」 グレイスは戦闘中のガジェット部隊と次元海賊、そして管理局のスクランブルらしい3機のバルキリーに視線を投げ、 「幸運を」 と呟いた。 (*) 千葉半島沖 45キロ海上 そこではサジタリウス小隊の3機がきれいなデルタ編隊を組んで飛んでいた。 しかしその足取りは極めて速い。なぜならAWACS『ホークアイ』を介して5分ほど前からガジェット達が活性化。通りかかった一般船籍の船に攻撃を開始したようだと通信を受けたからだ。 その船は通信機が壊れているのか応答がないが、AWACSからの高解像度写真を見る限り応戦する力はあるらしく魔力砲撃の光跡がいくつか確認できていた。しかしどうも船籍に記された遠洋漁業船には見えなかっため、政府機関その他に確認をとっているという。 暗い海上に鮮やかな青白い光の粒子を曳きながら飛行する3機は、ついにそれを目視した。 月明かりに照らされたその漆黒の船は甲板から煙をあげながらもジグザグに波をかき分け、よってたかるガジェットに対して乗員が魔力砲撃でなんとか応戦していた。 その時、AWACSから続報が入る。 『こちらホークアイ、その船の本当の所属がわかった。どうやらミッドチルダ政府と極秘で会談したどこかの世界の外交官の次元航行船らしい。まだ政府機関に再確認しているが、おそらく間違いない』 「了解した。・・・・・・こちらは時空管理局、フロンティア基地航空隊のサジタリウス小隊と機動六課だ。これより貴艦の離脱を援護する」 デバイス間で使える短距離通信で送ると、その返信はすぐに来た。 『こちら輸送船「キリヤ」、支援に感謝する!しかし我々はここからは動けない。まだ待ってる人が来てないんだ!』 「外交官のことですか?もしそうなら私、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの名において必ず時空管理局が責任を持ってそちらの世界に送り届けます。なのであなた達は至急戦闘地帯からの退避を」 次元航行部隊に深いコネがあるフェイトがその外交官らしい人物の送還を確約するが、キリヤ乗員は 『外交官・・・・・・?ああ、そういうことか・・・・・・いや、我々は必ず姉さんを連れて帰る!あと10分でいい、待たせてくれ!』 と譲らなかった。バックミラーを介した目配せにフェイトは頷き、さくらの機体に乗るなのはも「仕方ないね」と頷いて見せる。VF-1Bの後部座席に座るヴィータもため息とともに両手でお手上げのジェスチャーをした。なら、彼らの行動は決まっていた。 「ホークアイとロングアーチへ、これより輸送船「キリヤ」の防空戦闘を開始する」 『こちらロングアーチ、現場の判断を尊重します』 『こちらホークアイ、船舶の退避前でも交戦を許可する。なお、おそらく外交官の機体と思われるアンノウン機が2機、そちらへ向かっている。到着予定は5分後。それまでキリヤを防衛せよ』 「『『了解」』』 6人の声が無線を介して唱和し、戦闘態勢に移る。 『こちらサジタリウス2。これより中距離援護体勢に入ります』 『スターズ1、サジタリウス2に続きます』 編隊が崩れ、VF-11Gが離脱する。 そしてガウォークに可変すると、キャノピーからなのはを出した。 他2機も前進を維持しながらガウォークに可変。キャノピーを開ける。 「じゃあアルトくん、またあとでね」 「ああ、気をつけろよ」 出ていくフェイトを見送ると天城のVF-1Bからもヴィータが出ていく所が見えた。安全確認と共に再びキャノピーを閉めると、敵を見据える。 この時点においてもガジェットはこちらに対しまだ何のアクションも起こさなかった。 (・・・・・・不意打ちになりそうだし、こりゃほとんどミサイルでカタがつくかもな) 今回ガジェットは速くなったといっても所詮音速レベルで、ミサイルにとってそれはちょうど狙いどころだった。 「天城、まずミサイルで半減ぐらいしておこう。目標はこっちで設定する」 『了解』 アルトは天城の機体のFCS(火器管制システム)との接続を確認すると、ヘルメットのバイザーに現場空域を拡大投影し、視線ロックをかけていく。 (・・・・・・こんなもんか) アルトは敵機の約4分の3(5分前に増援が来て現在は全体で25機)をレティクルに収めた。 「ミサイルで撹乱後、ガジェットをキリヤから引き離すぞ。各隊、準備は出来てるか?」 アルトの呼び掛けに各自ゴーサインを出す。 「よし!戦闘開始!」 VF-25とVF-1のランチャーポッドから一斉に発射されていくミサイル。 それらは流れる川のように敵めがけて飛翔し、アルト達も続く。 だがガジェットの対応は予想外のものだった。 いままでミサイルにはレーザーで迎撃していたが一転、フレアとチャフ(レーダー撹乱幕)で回避に走った。 マイクロハイマニューバミサイルの誘導は赤外線とレーダー探知が併用されている。 ガジェットは元々魔力推進のため排熱量が少ない。そこで大気摩擦による熱で誘導するために赤外線感度を最高にまで引き上げている。だがそれすらアクティブ空力制御システムによって極小にまで減らされてしまっていた。 そしてチャフで更にレーダーが効かなくなったミサイルはどこへ行くか。 無論、最大熱源になったフレアだった。 通常このような事がないように、多少はAIが補正する(同一目標に重複したミサイルが、相互リンクによって本物を思索する。結果的に分かれた熱源全てに当たりに行ったり、可能性の最も高いものに向かっていったりする。第25未確認世界において目標1機に対し、複数発のミサイルを割り当 てるのはこのため)ようプログラミングされていたが、管理局はオミットしていた。 なぜならガジェットはいままでミサイル対抗手段(フレアやチャフ、ECM)を装備しておらず、命中精度の低下を看過して、誘導プログラムの簡略化によるコスト削減と効率の向上を優先したためだ。 おかげでミサイルはそのほとんどが散らされ、無益に自爆する。また、たとえ命中しても一発では落ちなかった。 『なんじゃこりゃ!?』 天城の悲鳴が耳朶を打つ。 どうやら装甲も機動力もかなり底上げされているらしい。 ミサイルの命中痕には、転換装甲特有の〝ただ汚れただけ〟に見える被弾痕が残り、多数束ねられたスラスターによる緊急回避もやってのけていた。 しかし驚くべきことは、この介入に対する反応がそれだけで終わったことである。ガジェットは相変わらず海上で回避運動を続けるキリヤに攻撃を続け、こちらに対して迎撃態勢にすら着こうとしていなかった。 「なめやがって!!」 ファイターのVF-25は最寄りのガジェットに推力全開で急接近すると、ガンポッドを放つ。ガンポッドから毎分300発という速度で58mm高初速徹甲弾が放たれ、至近であればバルキリーの転換装甲をも5、6発で貫徹する運動エネルギー弾が敵に向かって飛翔する。 命中直前、ガジェットの要所に付けられたスラスターが瞬いたと思うと機体全体が瞬時に数メートルズレて、それら弾丸は当たることかなわなかった。ガジェットはもともと人間よりも小さいサイズで、それほど質量もない。そのためある程度強力なスラスターであればこのような機動をさせることは難しくないし、数メートル軌道を変えるだけで小さいガジェットには命中を避けることができた。 しかしアルトはあきらめない。 よけられたと見るやスラストレバーを45度起こしてガウォークへと可変すると、その形態だからこそできるヘリのような立体機動で肉薄していく。そして極めて至近になったとみるや、さらにレバーを45度起こしてバトロイドへ。頭部対空魔力レーザーで敵の機動を制限し、その間にPPBをガジェットと同じぐらい大きなその拳に纏わせて抜き放つ。放たれた右ストレートはガジェットに命中し、反対方向へ吹き飛ばした。間髪いれずにガンポッドを構えなおすとスリーショットバースト(3点射)する。殴られた時点で転換装甲を完全に抜かれていたガジェットは、オーバーキルと言う言葉がぴったりなぐらいに3発の砲弾によって紙屑のように引き裂さかれ、その構成部品を大気中にまき散らした。 即座に離脱。索敵を開始する。残りの3人もそれぞれ1機ずつ落としたらしい。レーダーに映っていた機体が25から21に減っていた。 『『中距離火砲支援、いきまーす!』』 なのはとさくらの宣言と同時に一筋の桜色の魔力砲撃と、青白い光をまとった76mm超高初速徹甲弾の弾幕がガジェットの前にばら撒かれ、その攻撃を抑制する。 そこまでしてようやくガジェットも重い腰をあげたようだ。おもむろに5機のガジェットが反転、迎撃態勢に入る。 『たった5機かよ・・・・・・拍子抜けだぜ・・・・・・』 敵にもっとも近かった天城のVF-1Bがミサイル数発とともに先行する。しかし次の瞬間にはその認識を改めることになった。 ガジェット5機は先行してきたミサイルをスラスターをフルに使ったジグザグ機動で無理やり回避すると、ぐうの音も出ないうちにVF-1Bに肉薄。散開したかと思えばリング状に展開して機体を包むと、一斉に中心にいるVF-1Bに向かってミサイルを放った。 この間2秒。天城にできたことと言えばエネルギー転換装甲にフルにエネルギーを回せるバトロイドに可変することと、魔法の全方位バリアを展開することだけだった。 着弾、そして大爆発。 全方位バリアは爆発の衝撃波をコンマ数秒受け止めて崩壊し、VF-1Bを包む。 「天城!大丈夫か!?」 『な、なんとか・・・・・・』 アルトは瞬時に多目的ディスプレイのJTIDS(統合戦術情報分配システム)のステータスを見る。VF-1Bには損傷はないようだったが、魔力炉とエネルギーキャパシタのエネルギーを使い切っているようだった。これでは当分戦えない。 そしてそうしている間にも〝観測機器を外装した〟ガジェット1機の率いる5機は次なる目標、VF-25に向かっていた――――― To be countinue・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 ユダシステムと対峙する管理局勢 彼らは果たして次元海賊の脱出を阻止できるのか! そしてすれ違ってしまったなのはとティアナ達の行く末はいかに! マクロスなのは第24話「教導」 ―――――――――― シレンヤ氏
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【妄想属性】パロディ 【作品名】涼宮ハルヒの詰合 【名前】God 【属性】神 【大きさ】0 【攻撃力】単一宇宙常時全能。 【防御力】単一宇宙常時全能。 【素早さ】あらゆる意味での全時間で絶対に先手を取れる奴よりいくらでも早く先手を取れる。 むしろ先手・後手などという考え方自体がGodにとってはあらゆる意味で無意味なほど早い。 そして行動はそのまま相手に何もさせずにあらゆる意味でいくらでも動けるほど速い。 当然だがこれは考察外・対戦外・現実時間やそれ以上・それ以外さえも含めてのことである。 【特殊能力】God knows: Godはあらゆる意味での全知よりいくらでも上の超全知なので、 自分が勝てない相手にも絶対勝てる方法とそれを絶対に邪魔されずに実行できる方法を知っている。 当然だがこの能力が絶対に無効化されない方法や能力では勝てない奴に勝つ方法も知っているし God knowsで対処できないいかなる敵・攻撃・状況も絶対に対処できる方法と それを絶対に実行できる方法も知っている。 もちろん、これらの方法は全て自分が絶対に実行可能な方法である。 これによりあらゆる意味での全知全能よりはるかに強い奴と戦って無傷かつ相手を一撃で倒して勝利した。 【長所】【短所】全知にも程がある。 988 名前:格無しさん 投稿日:2006/10/21(土) 12 46 04 God: 現最上位並の素早さを持ち、一手で必ず勝つとすると、 一手目で最強になる必要がある全階層全宇宙全次元全知全能完全超越最強船団より下には勝てる。 微妙だが、作者=God~現最上層位=Godのいずれかになると思われる。 24 : ◆rrvPPkQ0sA :2016/10/05(水) 22 16 11.37 ID QjacyY/N 総当たり考察戦
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「いったい……何なんだよ?……てぇ!リンカーコア!!!」 しばらく呆然と仮面男をみていたが本来の目的を思い出すと、砂竜に目を向ける。 ビクビクと痙攣ていたが回収には問題なさそうだった。 「よかった……間に合った」 ホゥっと安堵のため息をつくと倒れた砂竜に近づきリンカーコアを回収した。 「あ……」 そこで気が抜けたのかヴィータは意識を手放した。 「む、いかん。トォッ!!」 ジャンプし少女をキャッチする 「どうみても人間の女の子だな……」 ―――魔法少女リリカルなのはA s―S.I.C―帰ってきたV3―――第2話「仮面ライダーだった男」 彼は混乱していた。 いつものように当てもなくこの世界を彷徨い、砂竜を狩る いつか自分を倒せるほどの個体と出会うこと ここ最近はこのあたりで発生した新種を探していた。 ルーチンワークとなりかけた自分が期待していたのがヴィータと戦っていた巨大砂竜だった。 通常の固体よりも強い識別呼称『白い悪魔』 暴れた後には高熱によりガラス化した砂が残っていたことから なんらかのエネルギーを使用した攻撃をすると予想された。 打上げたV3ホッパーからの情報を解析し最大の熱量を探し出し、現場に急行したときにはすでに戦闘が始まっていた。 自分の標的と戦っている者、その相手は可愛らしい衣装を纏った少女だったことに驚きつつも、 とうにこの世界で滅亡してしまった人類の姿をこの異常な事態のなかで目撃した。 「生き残りの筈がない。あんな地獄で……生き残れるはずが……」 核の炎が全てを吹き飛ばしたとはいえ、初めの頃は僅かな生き残りもいた。 しかし、激変した地球環境は人類に優しくは無かった。 ”タスケテ” ”ナンデ オマエダケ?” ”クルシイ クルシイ” ”シニタクナイ” 怨嗟の声を上げながら死にゆく人々をみることしかできなかった自分。 あの地獄ですらこの躯を機能不全に陥らせることができなかった。 生命維持装置、パワー調整装置、その他いくつかの装置は正常に稼動し、平時と変わらないコンディションを保つようにしていた。 あのときほど自分の躯を呪ったことはなかった。 かつてない程の無力感を感じた。 何度倒されても諦めず戦い続けた いくらかましになったとはいえ、今でもこの星は人類が生活できるような生易しいものではない。 そう、彼のような改造人間でもない限り。 だが、Oシグナルの反応では機械的な部分は関知できない 。 「普通の少女だというのか?しかしあの力は……む?これは…」 腕の中で眠る少女へセンサーを稼動させるとやはり違和感を感じた。 さらに精査を行おうとしたその時… 「ヴィータ!!」 桃色の髪を結わえた剣士と、何故か犬の耳が生えた筋肉質の男が宙に浮かんでいた。 シグナムは混乱していた。 定時連絡がこないのはいつものこと(蒐集に夢中になって忘れている)だったが、こちらからの連絡には応えていた。 しかし、今回はこちらがいくら呼びかけても反応が無い、ただでさえ管理局だけでなく妙なやつらもうろついているということが 焦りに拍車をかけていた。そのために念のためザフィーラとともにヴィータがいった世界へ向かっのた。 そこでシグナムが見たものは夥しい砂竜の屍の山と黒煙、そしてその中心にいる仮面男だった。 人間型の生命体が存在しないはずの世界にいる人型の存在。 この世界に人類はいないはずだった。正確にははるか昔に滅亡している。 ならばこれはいったい?この砂竜の屍の山をやつが築いたのか? 実際はほとんどヴィータがやったのだが、この状況ではやつが殺戮者にしかみえなかった。 ふと、その腕に抱えられている小さな姿に気づき思わず叫んでしまった。 「今日は千客万来だな」 「貴様!ヴィータに何をした!?」 仮面男の飄々とした態度にいらつきを隠せず怒鳴った。 「慌てるな、気を失っているだけだ」 言いながらヴィータの体を横たえた 「貴様いったい何者だ?」 「それはこちらが聞きたいな招かれざる客だというのは分っているのだろう」 「……ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム」 「盾の守護獣ザフィーラ」 「ヴォルケン、リッター……ドイツ語?」 かみ締めるように呟いた。 「そんなことより貴様は何者だ!」 ククク、と笑い声を上げる シグナムは怪訝な顔で男を見た 「悪いな、”人”と会話をしたのは久しぶりでな、この世界でのただ一人の生き残りとしては、歓迎すべきかせざるべきか……俺の名はV3、か…いや、ただのV3だ」 「V3……?」 「なるほど、見た目どおりただの人間ではないか、存外、戦闘能力も高そうだ」 こちらを品定めをするような様子で見た。 「ちょうどいい、久しぶりに戦い甲斐ののありそうな相手だ……俺と戦え!」 「なにっ!?」 「くっ! ザフィーラ!ヴィータを頼む。私はこいつを抑える!」 「トオオォッ!!」 雄叫びを上げ一直線に電光石火のパンチを打ち込む。 軌道を剣で逸らし、返す刀で切り込むが 「オオオオオオオッ!」 続けざまに打ち込まれる拳をレヴァンティンでいなす。 「V3ィ!」 エネルギーを左腕に集中させる。 「電熱チョップ!!」 赤熱化した左腕を振るいレヴァンティンのガードを弾いた。 「V3パァンチッ!」 がら空きになった胴体めがけて繰り出された拳を辛うじて左腕で防御する。 が、 「ああああああああ!!」 ガードした右腕ごとシグナムは弾き飛ばされる。 「ヤアアアアッ!」 その隙を逃さず、キックを繰り出すが、シグナムは長剣レヴァンティンを振って弾き飛ばした。 V3は弾かれた反動を加えて跳ね、体勢を整えると身を翻して再度蹴りを叩き込む。 「V3ィ!反転キック!」 「がああああああ!」 衝撃を受けきれず、シグナムは砂漠に叩きつけられた。 V3は追撃せずに待つ。 「どうした?この程度か?」 もうもうと噴きあがる砂煙の中から声が聞こえた。 「レヴァンティン、カートリッジロード!」 「Jawohl.(了解)」 レヴァンティンを鞘に収めカートリッジを消費する。 「Nachladen. (装填) 」 ガシュンと使用済みカートリッジが排莢された。 「Schlangeform.(シュランゲフォルム) 砂煙の中から飛び上がったシグナムは変形して連結鎖刃形態となったレヴァンティンから必殺の一撃を放つ。 「はあぁっ! 飛竜一閃!!」 莫大な魔力を纏った炎の蛇の突撃は最早突きではなく砲撃だった。 上空から迫るその一撃を避けることができず真正面から食らってしまった。 「オ、オオオオオッ!!」 大音響と共にV3は爆炎で包まれた。 「はっ!はっ!危なかった。が、これでお終いだ……!?」 息を整え、せめて亡骸を確認しようと煙が晴れるのを待ったシグナムは信じられないものを見た。 爆炎が晴れた先にはV3はそこに立っていた。 両腕を交差させ、完全防御体勢をとっていたが 「馬鹿な!? 直撃だったはずだ!」 自分の技を喰らって魔力も持たないモノが無事でいられるはずがない。 シグナムは知らなかったがV3の躯は脳以外を全て機械化している。 そのため、純魔力攻撃では思ったほどのダメージを与えることができなかったのだ。 思わず呆然としてしまったシグナムに構わず、V3は防御をといて次の攻撃に移った。 「今度はこちらの番だ!決めさせてもらう……ハリケーン!!」 ブオオオオオオオオオオオンンッ!!! 馬がいななくようにあたりにエンジン音が響く。 長年連れ添った相棒。長い戦いの末に共に改造を受け続けたハリケーンは主の呼び声に応え、 砂地をアスファルトと変わらぬ速さで駆けてくる。 「トオッ!!」 V3とハリケーンは同時にジャンプ、高速回転するタイヤに足をつけ反撥。 V3自身の体を高速回転させ超スピードで目標に向かっていくが、シグナムはその軌道を読み回避した。 「甘い!」 しかし、V3はOセンサーで正確に居場所を探り、軌道を変えて直撃コースに載せ変えた。 「なっ!?」 今度は避けきれなかった。 「V3ィィィイ!!!マッハァッ!!!キィィィィィィィィィック!!!!」 猛特訓の末に編み出しツバサ一族の長、死人コウモリを葬り去った文字通りの必殺キックがシグナムの腹部に炸裂した! その瞬間両者は弾かれ、砂の大地に叩きつけられていた。 「………くっ!なんて威力だ…!」 騎士甲冑で軽減されたとはいえ 腹部に手を当ててよろめきつつもシグナムはまだ立っていた バリアジャケットはボロボロになっていたがその役目はしっかりと果たしていた。 本来ならば改造人間を真っ二つにするほどの威力を秘めた一撃を大きく減衰させたのだ。 それでも無視できないダメージを与えられてしまった。 まさかここまでとは……! シグナムは驚愕を隠せなかった。 スピード、パワー共に強力 一撃一撃が、単なるパンチやキックでは無く、自分の体を知り尽くした上で数々の修羅場を潜り抜けてきて鍛えあげた技だ。 リンカーコアは持っていないようだがその不利を補って余りある、いや不利にならないほどの強さだ この男は魔法を使えない、それでもかつて戦ったフェイト・テスタロッサどころか、 自分たちヴォルケンリッター以上の戦士であるかもしれない。 ヴィータはザフィーラに任せたのは正解だった。 言いたくは無いが気絶したヴィータがいてはザフィーラとの2対1とて危なかっただろう。 そんなことを考えていると人影が見えてきた。やはりあの程度では倒せなかった。 砂煙で隠されていたV3の姿が顕になった、胸の装甲が斜めに切り裂かれている。 「ハハ」 V3は笑いを堪えられなかった。 キックのタイミングにあわせてカウンターを仕掛けてきた! 彼女ならが俺の望みを叶えてくれるかもしれなかった。 この永遠の躯に終止符を打ってくれるかもしれない どんなに苦しくとも自殺はできなかった、最後まで戦士であるためだ。 それは、自分の信じたもののために戦った自分の最後を誰かに見届けて欲しいという願望だった。 もう”仮面ライダー”とは名乗れないのだから。 世界の平和と人類の自由を守るために戦う戦士が仮面ライダーだ 己自身の自殺のために戦う今の自分に"仮面ライダー"を名乗る資格はない そして、仮面ライダーは無敵でなければいけない だからこそ自分は戦士"風見志郎"として戦い、死ぬしかないのだ。 そこで、ふと思い出す。かつて恩師との会話を “ オヤジさん・・・だめだ あの怪人は強過ぎるんですよ ” “ でも俺は精一杯やっ ― あっ っううっ― ” “ 俺は無理な事を頼んでいるんだ! ” “ 仮面ライダーV3は無敵で在って欲しい! ” 仮面ライダーは無敵である 唯一絶対の約束を守って今まで生きてきた。 「……わかってるさ、オヤジさん。俺は……仮面ライダーV3は無敵『だった』。だから……もう、いいよな?」 「いくぞ!俺を………殺して見せろ!!!!……騎士よ!!!」 「来い!戦士V3!!」 仮面ライダーだった男、V3! 風見志郎は死ぬために戦う! 両者は再び構える。 次で勝負が決まる。 どちらも自身の最大の技を繰り出す構えを取ったのだ。 だが、そのときだった。 「何!?」 「馬鹿な!?…こいつらは!!」 GLUUUUGAAAAAAA!!!!! 奇怪な雄叫びが砂漠に木霊する。 10や20どころではない、100にも届こうかという数だ。 この世界においての”古代の遺物(ロストロギア)” ミイラの改造人間、不死身の兵たちが砂の中から出現し、2人の周りを取り囲んでいた。 前へ 目次へ 次へ
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